軽い城之内×静香ぽい描写があります。
城之内くんが電話しながらひとりHに励んでいます。
ご注意ください。
「城之内さーん!」
「おう、遊戯」
ぶんぶんと手をふって、子犬のように遊戯が飛びついてくる。城之内は、ひょいっと遊戯を抱き上げて、ぎゅっと抱きしめたあと、頬に軽くキスをした。遊戯はうれしそうに笑っているし、周りもほほ笑ましそうに見ている。
「ボク、おはぎ持ってきたんですよ。お母さんからの差し入れなんです」
「どこ?」
「バスん中に置いてあります」
「んじゃ一緒に食おうぜ。オレ、しばらく時間待ちだから」
「はい!」
腹の中で、何を考えてるかなんて言えない。
言えやしない。
*
ドラマの放映が始まってから1ヶ月が経った。視聴率は好調だった。出演者は、あまりネームバリューのない若手で揃えたのだが、実力派が揃っていたし、スポンサーが提供してくれたド派手なエフェクト用のツール(ソリッド・ビジョンと言うらしい)が子供や特撮好きの大人に受けた。販促している玩具の売れ行きも上々だった。スポンサーは大喜びらしい。
子供向けはさ、いいよ。反応が率直で。苦労も多いけどな。
スタッフにそう言われて、城之内も肯いた。少しでも気を抜いた演技をすると、おしかりのお手紙なんてものをいただくのだ。メールより、母親が代筆したものより、読みにくい、象形文字でつづられたようなハガキの方が城之内はうれしかった。このドラマを始めるまで知らなかったが、子供相手だと、城之内の厭世的な部分は影をひそめるようだった。
別に、子供が天使って思ってるわけじゃないけど。
どちらかと言えば、悪魔だ。
子供は、歯に衣着せないストレートな意見ばかり言う。だが、それが城之内には心地よかった。
『城之内 克也』という役は、子供に人気があった。明るく脳天気で、侠気に厚い。城之内からすると考えの足りない部分が多く目についたし、侠気というのはただの見栄だと思えたし、思慮の足りない直情主義に見えたが、そういう、自分とまったく違う性格の役をやることは面白かった。
それに、遊戯には負けてられないしな。
遊戯の演技はびっくりするほど上手かった。ふだんは、ちょっと引っ込み思案の大人しい子供にしか見えないのに、芝居になると別人のようにオーラがあるのだ。映画で外国の賞をとったことがあるのも頷ける。
「遊戯って、ほんと演技うまいよな」
城之内は素直に遊戯の演技を褒めた。その場で見ていてさえ、「もうひとりのボク」を演じているときは、本当に同一人物なのかと疑ってしまうぐらいだった。メイクと服装(隠しヒールのある靴で身長を高くしている)で変えているとはいえ、信じられないぐらいの別人ぶりだった。
「そ、そんなことないですよ」
恥ずかしそうに指先をもじもじと擦り合わせながら、遊戯は頬を朱に染めた。なんでこの子供が自分をそんなに尊敬しているのか、本当に謎だ。芸歴はそれほど長くないし、演技もたいしてうまくはない。
「ため口でいいぜ。オレなんて下っ端なんだし」
「だって城之内さん、かっこいいから」
「『城之内くん』だろ?」
ほら、口あけろよと、城之内は遊戯をうながした。
おはぎを、膝にのせた遊戯にたべさせる。もぐもぐと食べている様が、なんともいえずかわいらしい。「遊戯とオレは親友だもんな」と言えば、照れながらもこうやって触れさせてくれるのだ。こんなことに役を悪用されるだなんて、脚本家の先生も考えてはいないだろう。
「指に、あんこ付いてますよ」
「舐める?」
冗談めかして言ったつもりが、遊戯は素直に受け取ったのか、城之内の手をとって指先をゆっくりとねぶった。ピンク色の舌が、自分の指先をなぞる。指の股のところまで、丹念になめとって、最後に指先をちゅっと吸った。ぞくぞくとしたものが城之内の腰からはい上がってくる。
快感だ。
遊戯から性的なニュアンスは、これっぽっちも感じない。あたりまえだ。まだ小学生なのだ。女の子ならませているだろうが、この年頃の男の子なんて何も考えてない。ハダカになったらえっち。シモネタを使えばえっち。それぐらいのものだ。
それだというのに。
(――勃起しそう)
城之内は熱いため息をついた。遊戯は気が付かない。気が付くわけがない。おかしいのはオレなのだ。
「遊戯くーん! ちょっとカメラテストするから来てー」
「はーい」
行ってきます!と元気に出ていく遊戯に手を振った。それから城之内は、目を閉じて、ゆっくりと自分の指先を舐めた。
するはずのない、遊戯の味がした。
*
「静香、お前おはぎたべる?」
「ひとつだけならー」
自分の部屋でフィットネスに励んでいた静香は、したたる汗を拭きながら、リビングにやってきた。このマンションには、兄妹二人で住んでいる。会社に用意してもらったのでセキュリティは万全だった。
城之内は、静香に緑茶をいれてやった。この妹は冷たいものは飲まないのだ。
「ありがとう。最近お兄ちゃん、まめだよね」
「そうかな」
静香は城之内の隣にすわると、肩にもたれかかってきた。
「重い。汗くさい」
「失礼だなぁ」
むっと唇を突き出す静香の姿を、テレビで見ることはできない。
おしとやかな清純派で、どこか薄幸そうにみえる静香は、一本のCMに出ただけで、すぐに男性人気がでた。その後もテレビや映画にも切れることなくでている。今では守ってあげたくなる女の子No1だ。若い女性からの人気はあまりないのだが、先日国営放送のドラマで小公女のような役をやったおかげで、年配の女性からは支持を得ている。
「ところで、これ、どこで買ってきたの? お重に入ってるなんて高くなかった?」
「遊戯にもらった」
甘いモノがあまり得意ではない城之内でも食べられる上品な甘さだったので、どこで買ったのかたずねたら「家で作ったんです」と返事をされた。
「おはぎなんて作れるの?」
「作れますよ。ボクも手伝いました」
「すっごくうまい」
そう言うと、遊戯は喜んで城之内のためにおはぎをつくってきてくれたのだ。
静香はそれを聞いて、ふうんと含みのある返事をした。
「なんだよ」
「仲いいなーって思ったの」
「親友役やってるんだし、悪いより良い方がいいだろ」
そうだけどと、静香は反論した。
「お兄ちゃんって、他人にそう簡単に懐くタイプじゃなかったじゃない。子供好きでもないし。御伽クンが驚いてたよ。現場に行ったら、別人みたいにはしゃいでたって」
御伽 龍児は、城之内とも顔見知りの男性アイドルだ。静香が共演したときに知り合ったのだが、音楽好きという点で、城之内とも話が合った。ナルシストめいた言動とその美貌で売ってるが、本人はマジックが好きでサックスを吹くのが好きな、気の良い男だった。
「あいつも来月頭ぐらいから、参加するんだよな」
現場の空気を見ておきたいということで、この間遊びに来ていた。そのときに見られたのだろう。いつもの自分と、そんなに空気が違うのだろうか。
「役の影響もあるかもな」
……それだけなわけ、ないじゃん。
静香はちらりと城之内を見たが、そのことについて言及はしなかった。
「にしても、おいしいね。このおはぎ」
「ああ」
「手作りなんてすごいよね」
「遊戯の家のお母さんは、料理上手なんだと」
城之内も静香も、お互い忙しいので、料理らしい料理はほとんどしていない。外食だと栄養が偏るから、簡単な調理ですむ宅配の食事を利用している。別にそれがイヤだというわけではない。母親の家庭料理なんてものにはもとから縁がなかった。他人を羨んでいたらキリがない環境に育ってきたのだ。欲しければ自分で手に入れればいい。静香はそういう主義だ。兄も同じ考えの持ち主だと思っていた。
でも、今の夢見るような表情は、なんなのだろう。
名前を唇にのせるだけで、喜びにあふれるような。
静香はおはぎを食べ終えると、城之内の頬にキスをした。それから、餡のついた指先で、そのあとをなぞってやる。
「なにすんの、お前」
「いやがらせ」
嫌がらせにもほどがあんだろと、ぶつぶつ言いながら、城之内は立ち上がった。
「ついでだから、オレ風呂はいって寝るぞ。明日早いし」
「うん」
「重箱、キッチンにおいとけよ。洗って持ってくから」
「はーい」
ドアを開けようとしたところで、城之内は振り返った。
「なあ、静香」
「なあに、お兄ちゃん」
「ホットケーキなら作ってやるよ。おはぎは無理だけどな」
「野菜ジュースでいいよ」
静香はとびきりの笑顔を城之内にみせた。
なんて素敵な勘違いだろう。おはぎが欲しいわけじゃないのよ。
ほんとに、困ったお兄ちゃん。
*
風呂につかったあと、城之内は自分の部屋に戻った。携帯電話をみながら、明日のスケジュールを再度チェックする。ロケはどうしても早朝が多くて、夜更かしの多かった城之内には、正直つらい。アラームをしかけて、いざ寝ようとしたところに電話が鳴った。
「誰だ?」
ディスプレイの表示を見る。武藤 遊戯の名前が浮かび上がっていた。
城之内はあわてて電話にでた。
「もしもし、遊戯?」
「城之内さんですか? 遊戯です。夜分すみません」
ぺこりと頭をさげている様子が想像できた。城之内は、ベッドに寝ころびなおしながら、口元に笑みをうかべた。
「どうしたんだよ、何か急用か?」
「あの、おはぎ、どうでしたか?」
「食べたよ。すごくうまかった。うらやましいよ。料理の上手なお母さんがいて」
「よかった。あの、それで、ママ……じゃない、お母さんがすごく喜んじゃって、よかったら明日の朝のお弁当、城之内さんの分も作るって」
「ほんと?」
「ご迷惑じゃないですか?」
「ぜんぜん。すごく嬉しい」
「じゃあ、ママに伝えます」そこで、いったん遊戯は電話をはずしたようだ。家人と何か話しているのだろう、すこし遠い、声にならない音が聞こえてくる。
城之内はパジャマのズボンの中に手をいれた。
「す、すいません。あの、嫌いな食べ物とかありますか?」
近くにいる母親が聞けと言ったのだろう。受話部を押さえているのだろうが、遊戯が母親と話している声が漏れ聞こえてくる。
「なんでも平気」
「食べられないものとかは?」
「ないよ。オレ偏食しない子」
「すごいですよね」
「遊戯は、らっきょうがダメなんだっけ」
「はい、そうなんです。あれって、美味しいですか?」
「うーん、すげぇウマイとは思わないけど」
たわいのない会話をつづけながら、城之内は下着の中のものを取りだした。すでにそれはゆるやかに立ち上がり始めている。遊戯の幼い声をききながら、ゆっくりとしごき始める。
おかしいことをしている自覚はある。
やばい。
「あ、そうだ。逆に好きなものありますか? これが入ってるとうれしいとか」
「カレーが好きだけど、弁当には向いてないよな」
「やっぱりカレー好きなんですね」
遊戯は、うれしそうだ。
「なんで知ってるの?」
「インタビューでそう答えてたから」
ファンですからと誇らしげな声が聞こえる。城之内の性器は固く屹立し、先端からとろとろと分泌液をこぼし始めていた。
良くないことはわかっている。止めればいい。どう考えても、今自分がやっている行為はおかしい。それなのに手の動きは止まらない。
「遊戯の好きなのって、何?」
「ボクはハンバーガーが好きです。いいことがあったときは、ご褒美に連れていってくれるんですよ」
「マクドナルドとかじゃないとこ?」
「こないだは佐世保バーガーっていうの食べました」
「お母さんと行くの?」
「はい。あとおじーちゃんのときもあります」
「じゃあ今度オレと行こうか」
「ほんとですか!」
うれしそうな遊戯の声を聞いて、オレはイキそうになっている。
城之内は自嘲した。
変態だ。
「……うん。オフの日によかったら行こうぜ」
「はい! 楽しみにしてます!」
長電話してると迷惑でしょ。明日もあるんだから、早く寝なさい。
そんな声が遊戯の後ろから聞こえてきた。城之内や静香には縁がなかったが、こういうのが普通の家庭なんだろう。お弁当をつくってくれて、心配してくれて、やさしい母親に愛されて。自分とは縁のないものだから、欲情するんだろうか。オレは、遊戯を汚したいんだろうか。あんなに小さくて、かわいらしい、愛されるだけみたいな子供を?
それとも好きなんだろうか。
女みたいに寝たいんだろうか。
どっちにしろ、馬鹿げてる。
子供相手にすることじゃない。
わかってる。
それなのに感じてる。
「はーい。それじゃ、おやすみなさい」
「おやすみ、遊戯」
電話を切ったあと、城之内は遊戯の名前を何度も呼びながら達した。自分の精液で汚れた手をみて、城之内はため息をついた。
「完璧、やばいよな」
どの女とセックスしたときより、感じている。