城之内くんがソロプレイに励んでいるので
そのような性的描写が苦手な方は
閲覧なさらないようにお願いします。



「デートしないか?」
 顔合わせを終えたあと、城之内は遊戯を誘った。
「デート?」
 遊戯は大きな目をぱちくりとさせながら、城之内の顔を見上げた。城之内は安心させるように笑って「買い物に付き合ってほしいだけだよ」と言い直した。もちろん遊戯に異存があるわけはない。
「遅くならないのなら、大丈夫です」
「時間はとらせないと思うよ」
 遊戯はにっこりと笑った。
「ボクでよければ、よろこんで」



 テレビ局には、大型のショッピングモールが隣接されている。城之内は、そこに遊戯を連れていった。青い龍のオブジェがある入り口をくぐりぬけながら、遊戯は城之内に訊ねた。
「何を買うんですか? 服とか?」
「いんや、もっと違うもの」
 遊戯は首をかしげた。食料品は、こんなところで買わないだろう。そもそもボクを連れていく理由ってなんだろうか。まわりの店をきょろきょろ眺めながら歩いているうちに、城之内に置いていかれてしまった。遊戯はあわてて、後を追った。
 城之内は、エスカレーターの手前で立ち止まって待っていた。
「悪い」
「いえ、ボクもよそ見してたから」
 小さな子と歩いたことがほとんどないので感覚がつかめないのだ。そもそも足の長さが違った。城之内は、ほらと声をかけて、遊戯の手を握った。
「やっぱ手繋いでいこうぜ。はぐれたら困るし」
「で、でも……」
 テレビ局の中では、ほんのちょっとの間だけだったし、それほど人通りが多いわけでもない。だが、このショッピングモールは人気があって、一般のひとばっかりで、今だって、人もたくさん行き交ってる。
(それに城之内さんは、目立つもん)
 今だって、あれって城之内じゃない? うわー、ホンモノだよーなんて言い合いながら、こちらを見ている女のひとたちがいる。赤いフレームの眼鏡をかけてるけど、それぐらいじゃ変装にもならない。
 そんなところで手をつなぐなんて、やっぱり恥ずかしい。
 別に、ボクは子供だからいいんだけど。
 だけど子供扱いされるのは、イヤなんだけど。
「遊戯?」
「は、はい!」
 かがみ込まれて、ニッと笑われる。遊戯の心臓がどくんとはねた。やっぱり、かっこいい。前から、心密かに憧れていた本人相手に、至近距離で見つめられているのだ。緊張して、ドキドキしてしまう。
「じゃあ、抱っこしてってやろうか?」
 遊戯はぶんぶんと首を振った。
 さすがに、それは恥ずかしすぎる。
「だったら手、つなごうぜ。男同士だし、恥ずかしくねーだろ?」
 城之内さんは、けっこう強引だ。
 頬をまっかに染めながら、遊戯はそう思った。



 連れていかれた先は、音楽ショップだった。
 遊戯はさっそく駆け出して、城之内のCDのあるあたりを探した。
(せっかくだから、サインをもらっちゃおう!)
 もちろん家には同じものがちゃんと揃っているけれど、重複するぐらいはかまわなかった。お小遣いだって、無駄使いしないでためてるのだ。
 うちに帰ったらママに自慢しなくっちゃ。遊戯の母親も、城之内のファンだった。
「なにやってんの、お前」
 ひょいっとランドセルを掴まれて、猫の子のように持ちあげられる。遊戯は手足をぱたぱたさせながら、最新のCDを差し出して「さ、サイン……」とだけ言った。
 城之内は眉根をよせた。
「オレのなんて、どーでもいいだろ?」
「よくないです! ほしいもん!」
「いくらでもしてやるから、先にオレの用件すませなさいよ」
「うー」
 軽くうなる遊戯の頭をなでながら、DVDのコーナーにつれていく。そこのカウンターでは、すでに店員がDVDをずらりと積み上げていた。城之内の方をみて、「これでうちの店にあるのは、全部です」と愛想の良い表情を浮かべる。
「ぜんぶ?」
 遊戯は首をかしげた。
「お前が、出てる映画とかドラマとか」
「ええっ!?」
 遊戯はあわてて積み上げられたDVDの山をチェックした。たしかにどれもこれも見覚えがある。
 遊戯の芸歴は小学2年のときに、学校に馴染めない遊戯を母が心配して、劇団に突っ込んだのがはじまりだ。クラスの子が相手だと気負ってしまって、ろくにしゃべれないくせに、台本があれば奇妙なほど、すらすらとセリフを口にできた。芝居の役は、別の自分になるみたいで、楽しかった。学校の授業はよく覚えられないけれど、台本はすぐに覚えることができた。夢中になってやってるうちに、連続テレビドラマの子役に抜擢され、映画にも出るようになった。
「こ、こんなに買うんですか?」
「うん」
「で、でも、ボクそんなに出てないですよ。はじっこにチラっとってかんじで。そんなに目立たないし……」
「いいのいいの。お前だって、オレのDVDとか持ってるんだろ?」
「そ、そうですけど……」
 数が違いすぎる。遊戯は出演しているだけの作品なら、かなりの数になるのだ。
「んー、まあ持って帰るのは、たしかに大変だな」
 城之内は遊戯にDVDを選ばせた。遊戯は一番自分が気に入ってる映画をひとつ選んで差し出した。残りは配達してもらうことにして、カードで支払いをすませる。店員はありがとうございましたと深々と頭を下げた。
(ボクがファンだって言ったから、気を遣ってくれたのかなぁ……)
 遊戯はしょぼんと肩を落とした。CDとかDVDを持ってますなんて言わなければよかった。言わなければ、こんな風にむだなお金を使わせてしまうこともなかっただろう。出演した作品は、どれもがんばって演じたものだ。だけど、あんなにたくさん買う必要なんてないはずだ。
 ぽんと肩を叩かれる。
「どうしたんだよ、そんな顔して」
「あ、あの……」
 エスカレーターに乗って下の階へ向かう。遊戯は前にいる城之内に、ごめんなさいと謝った。いぶかしげな顔をしていた城之内だが、遊戯に理由を説明されると、途端に大声で笑い出した。
「じょ、城之内さん!」
「ご、ごめん!」
 おかしそうに顔をゆがませ、涙が目ににじんでいる。城之内は額をぶつけそうになるほどちかづけたかと思うと、遊戯の頭をぐしゃぐしゃとかき回した。
「社交辞令でモノ買う人間に見えるかな、オレ」
「だ、だって」
「ほしいから買っただけだぜ。これから『親友』になるんだしさ。それに勉強しといて損はねぇだろ?」
「で、でも」
「気になるなら、オレにアイス奢ってよ」
 城之内は、ちょうど次の階にあるコーナーを指さした。



 悩んだあげく遊戯はストロベリーを選んだ。城之内はラムレーズンにした。「ボクが払いますからね!」と宣言し、背伸びをしながら支払いをする遊戯をみて、城之内は頬をゆるませた。自分が、いつも通りじゃないという自覚はあった。率直に言えば浮かれている。
「はい、城之内さん」
「サンキュ」
 ジェラートをうけとって店を出た。ちょうど階段の影で、死角になっているベンチをみつけた。いちゃつきたいカップルの専用席みたいな場所だよなと思いながら、遊戯を手招きする。
「ここ座ろうぜ」
「はい」
 仲よくアイスを舐める。
(……ちっちゃい舌だよな)
 ピンク色の舌がちろちろとジェラートを舐めるのを見ているだけで、妙にずんとした感覚が下腹から沸き上がってくる。なんなのだろう、これは。
 いや、その正体は知っている。これまで似たような経験がないわけではない。だが、それはもっと成熟した女に抱(いだ)くもので、こんなちいさな子供相手に考えることではないはずだ。城之内は軽く頭を振った。
「ちょっと、そっち味見させて」
「いいですよ」
 遊戯は、はいとジェラートを城之内に差し出した。ちいさな舌のあとをなぞるようにしながら、イチゴ味のジェラートを舐める。あまい苺の味がした。それと別の甘い感覚が、自分の内側を襲う。脳髄がとろけそうだ。城之内は目を細めた。
「オレのも食べる?」
「はい!」
 城之内がさしだしたアイスを、遊戯が丁寧に舐める。ちいさな桃色の舌先が、やわらかなアイスをえぐってすくい取る。ぺろりと唇のまわりを舐める。その舌のうごきを、城之内は記憶した。濡れて、つやつやとひかる遊戯の唇のいろ。
 なんでオレ、こんな気持ちになってんだろう。
 城之内は、自分の中に育つ暗い欲心を、気が付かれないように舌先を軽く噛んだ。痛みで、思考をリセットしようとしたのに、それまでもが甘く感じた。
 何考えてるんだ、オレは。城之内は自問した。アイス食ってるだけだろ。
 コーンまでぱりぱりと食べ終えてから、遊戯は手を払った。城之内も食べ終えて、隣にすわる子供に、明るく声をかけた。
「あとで、DVDにサインくれよな」
「ボ、ボクのですか?」
「他に誰がいるんだよ」
 恥ずかしいなぁ……とうつむいて、遊戯は足をぶらぶらとさせた。細い首筋が赤くなっている。
「ほんとに恥ずかしいのか?」
「あんまりそういうの、したことないんです」
「サインくれとか、ねだられたりしねぇの?」
 遊戯は首をふった。
「ボク、地味だから。ぜんぜん」
「オレだって、マイナーもいいとこだぜ。ぜんぜん」
 ふたりは顔を見合わせて、笑った。
「ボクもお願いしますね。今度持ってきますから」



「ただいまー」
 家には誰もいなかった。静香は、今日は取材があって遅くなるはずだった。夕飯もすませてきた。明日のスケジュールを確認しなおしたあと、風呂に入る。ジーンズの下だけを穿いて、濡れた頭をタオルでがしがしとふきながら、冷蔵庫からビールの缶をとりだす。
(遊戯の映画でもみるかな……)
 居間のテレビで見ようかと一瞬考えたが、風呂上がりだし、ごろりと寝っ転がってみたい。ビールの缶を咥えながら、DVDのケースをもって自室に戻った。居間のテレビほど大きくはないが、自分の部屋にもテレビが備え付けてある。
 買ってきたDVDをセットし、リモコンの再生ボタンを押した。
 上半身をクッションでささえながら、映像を眺める。
 遊戯が出てきた。
 今の遊戯よりも、まだ幼い。パッケージをみると去年の発売だから、撮影はもっと前になるのだろう。画面いっぱいに、遊戯の顔が映し出される。テレビの中の遊戯は、無邪気に笑っている。なんの邪気もない笑顔だった。
 ふっくらした頬が愛らしい。
(つっついてみてぇ)
 ぐびりとビールを煽りながら、強烈にそう思った。
 突いて、触って、なで回したい。
 やわらかな指に触れたい。あかんぼうのような白い腹に触れたい。オモチャのようにちいさな足の爪に口づけたい。
(やべぇ、オレ)
 ……たまってるのかな。
 たしかに、最近女と寝ていなかった。彼女なんてものは面倒で、もう何年も真っ当に作ってはいないのだが、それでも性欲を解消するためにそれなりに付き合って、それなりに寝る。そういう彼女もこのところ作ってはいなかった。
 それとも、酒のせいだろうか。
 ビールの1本ぐらいで酔うとも思えないのだが。
 城之内はごくごくとビールを飲み干すと、くしゃりとそれを握りつぶした。部屋の片隅にあるゴミ箱に投げ入れる。ジッパーを下ろして、かるく熱を帯びた自分のモノを取りだした。やるんだったら、さっさとやってしまおう。別に自慰は悪いことでもなんでもない。ただの処理だ。たまってるなら、抜けばいいだけだ。だせば、すっきりするだろう。
 テレビからは遊戯のおさない声が聞こえる。甘い声だと城之内は思った。今日たべたアイスみたいに甘い。あのときの、薄紅色をした小さな舌。
(……あのとき、オレは何を考えた?)
 城之内は頭をぶんぶんと振った。
 自分のペニスを咥えてもらったことはある。舐められるのは嫌いじゃない。好きだ。だからといって、あんなちいさなガキに。ちいさな舌で。あんなきれいな、ピンク色の舌で、自分の欲望をくわえ込んでもらったら。
「……ッ!」
 勃起していた。
 思わず手を添えた。乱雑に擦りあげる。
 最近はご無沙汰だが、エロ本もエロビデオも見たことがある。女ともけっこう寝た。出来の悪いポルノみたいに淫猥なセリフを言わせるのも嫌いじゃないし、実際に言わせたこともある。そういうプレイもそれなりに楽しかった。
 どうして。
 どうして、遊戯のことを考えただけで、痛いほど勃起してるのだろうか。
 あのちっちゃな口で銜えているところを想像する。自分で握りしめたあのやわらかな手で、擦ってくれるところを思い描く。丁寧に自分のペニスを舐めあげてくれるところを考える。
 ――変態じゃねぇか。
 城之内は自嘲した。
 がちがちになってる。まるで童貞のガキみたいだ。先端からどろどろと溢れてきてとまらない。擦りあげる指先がぐっしょりと濡れている。
 今日、会ったばっかりだ。自分の半分ぐらいの年だ。子供にいたずらしたいなんて思ったことなんて無かった。そもそも男の子だ。
 それなのに。
「なんなんだよ、これ……ッ!」
 どうしようもないほど、気持ちがいい。
 やばい。
 やばい。
 わかっているのに、止まらない。
 止められない。
「遊戯……ッ!」
 テレビの中の遊戯を見つめながら、城之内は自慰を続けた。