遊戯は目を見開いて、城之内の顔をみつめた。
 城之内はぼうっとした表情のまま、遊戯をみている。熱で瞳がうるんでいた。顔も赤い。そのせいか、セクシャルなものを連想させる。それとも今の城之内の発言のせいだろうか。
「抜いて、すっきりしたいからさ」
 頼むよと、付け加える。
 気持ちはわかるけど、そんなことできないよ。そう言い返したいのに、城之内の顔をみると、遊戯にはなにも言えなかった。なんだよ、その弱々しげな表情は。してくれないのって、ねだる犬みたいな目は。おかしいだろ。そんなこと男に頼むなよ。彼女つくって、介抱してもらえ。
 でも、今、城之内に彼女はいない。ここにいるのは、自分だけなのだ。
 遊戯はごくりと唾を飲み込んだ。
「こ、こするだけだからね」
「うん」
 深呼吸を何度かくりかえしたあと、タオルで丁寧に城之内のそこを拭き清めた。他人の性器をこれほどまでに間近でみるのは、はじめてだった。抜いてというだけあって、むっと濃いにおいがする。熱を帯びているのは風邪のせいなんだろうか。
 抜いてあげるだけなんだから、さっさと終わらせてしまおう。
 きゅっと握りこむと、自分のものとちがう存在感のある大きさに、ちょっとコンプレックスを刺激された。遊戯は、おずおずと手を動かした。当たり前だが自慰の経験はあるし、勃起してるところなんて、いやっていうほど見ているのに、自分の手のなかで、城之内のソレが固く立ち上がっていくさまをみると、妙に緊張した。
 ごくりと唾を飲み込む。
 自分も興奮してるのだろうか。そんな馬鹿な。男のアレを擦ったところで興奮するわけがない。ありえない。
「き、気持ちいい?」
「まあまあ、かな」
 まあまあって。
 せっかく擦ってやってるのに、どういう反応だよ。遊戯はむっとしながらも、手の動きを速めてみた。このあたりが気持ちいいのだろうと思うところを刺激してみるのだが、なにせ自分のものではないせいか、どうにも勝手がわからない。とにかく、固くはなっているのだから、それなりに良いのだろう。そのまま続ける。
 城之内はうっとりと眠そうに目をつぶっているが、まだ達しそうにはない。
 気を使って丁寧にやっているせいか、だんだん腕が疲れてきた。
「まだ?」
「もっといいとこ弄ってよ」
 下手だなぁと言外にほのめかしている。カッとなる。そこまで言われると、遊戯も後に引けない。ここまできたら、遠慮なんてするもんか。この。
 根元から先端まで、ちいさな指先でいろいろといじってみる。袋のところもなでたり、さすったりしてみた。ひっぱって伸ばしたりする。ちょっと面白い。城之内は薄目をあけて、遊戯に言った。
「そういうの、わるくねーけど、それじゃイかない。無理」
「じゃあ、どうすればいいんだよ!」
 顔をにらみつける。城之内はどこかセクシャルな甘い声で遊戯に告げた。
「舐めて」
 遊戯は固まった。
「口でしてよ」
 いや。ちょっと待ってくれ。
「だめなのかよ?」
 そんな、こっちが悪いような言い方をされても。
 悲しそうに眉をひそめて、こちらを見るな。
「オレのこと、キライなのかよ」
 それは理屈が通ってないよ、城之内くん。
 熱があるからなのだろう。きっと風邪で、熱に浮かされているから、だから、こんな馬鹿なことを言うのだ。そう思うのに、遊戯は城之内の要求をはねのけられなかった。
 そんなに淋しそうな、悲しそうな、見捨てられた子供のような顔をするなよ。優しくしたくなる。甘やかしたくなる。馬鹿だってわかってるのに、望みを叶えたくなる。
 熱がうつったとでもいうのだろうのか。
 ボクは本当に、どうかしている。
「目、つぶっててよ」
 そう言うと、遊戯は城之内の股間に顔をうずめた。さっき拭いたときよりも、ずっと近い。震えながら、ピンク色の舌先をのばした。つやつやした先端にふれる。舌先に城之内の熱をかんじた。味は、あまりしない。ちろ、ちろと、何度か舐める。
 そんな風にかすかに触れているだけでは、物足りない。
「もっと」
 城之内は遊戯に行為をねだった。遊戯は意を決するように小さく息をつくと、ぱくりとそれをくわえ込んだ。ちゅうちゅうと、チューブアイスを啜るように、遊戯が城之内のペニスを愛撫する。城之内はようやく快感の吐息をついた。つたない動きだったが、舌と口腔のあつさが気持ちよかった。
「もっと舌、からみつけて」
「ん!」
「手もやって」
 注文うるさいよ、城之内くん。
 しかし遊戯はそのオーダーに懸命に応えた。ようやく口の中に、城之内の味があふれてくる。先端を突きながら、幹を擦った。
 城之内は遊戯の頭をゆっくりと撫でながら、その愛撫をうけいれた。薄目を開けて、遊戯の様子をみる。あんなちっこい口に入ってるんだなと思うと、なぜか興奮した。ヘタクソなのに、ぜんぜん上手じゃないのに、それなのに気持ちいい。へんだな。
 うれしい。
「……遊戯」
 性欲だけではなく、何か別の、幸福感のようなものがこみ上げてくる。城之内はそれに逆らわなかった。目を閉じて、身体をふるわせる。遊戯のくちびるから、城之内のものがこぼれる。熱い液体を顔にあびて遊戯がちいさく悲鳴をあげた。城之内はゆっくりと目をひらいた。遊戯の顔に白い液体がかかっている。遊戯の幼い顔に不釣り合いで、それがエロチックだった。
「顔射」
 そういって城之内が笑うと、遊戯はむっと頬をふくらませた。
「ごめん」
 城之内は素直にあやまり、そばにあったタオルで顔をふいてやろうとした。
 ちょっと待て。
 遊戯はその手を寸前で止めた。
「それはキミのナニをふいたタオルです!」
「あ、そか」
 まったく、もう!
 遊戯はタオルを城之内の手から奪うと、ぱたぱたと流しに向かった。ばしゃばしゃと顔を洗い、汚れを落とす。口もきちんとゆすいだ。ポケットからハンカチをとりだして、顔を拭く。それからタオルも、せっけんでごしごしと丁寧に洗った。
 その間に城之内はパンツとジャージを穿いた。
 遊戯は、ちいさな冷蔵庫に手をかけた。ふとその上に目をやると空き瓶に小銭がつっこんであった。まだ1/3程度しかたまっていない。小銭貯金でもしてるのかな。意外だ。そういや、最近タバコをあんまり吸ってないかも。
 遊戯は飲み物をとりだして、城之内に渡した。
「具合、平気?」
 城之内は笑みをうかべえて答えた。
「うん。すっきりした」
 来たときよりは調子がよくなったようだ。薬が効いたのかも知れない。遊戯は、城之内に布団をかけてやった。それから、部屋をすこし片付ける。家で洗ってくるつもりで、洗濯物を紙袋にまとめて入れた。さっきのタオルも一緒にいれる。他に忘れたことはないかと、部屋をみまわしていると、城之内がたずねた。
「なあ、もう帰るのか?」
 ねだるような目をしている。遊戯は苦笑した。城之内くんって、ひとりで居るのキライだよね。ほんと、寂しがり屋だよな。
「もう少し、いるよ」
 城之内は、いやいやをするように首をふった。
「泊まってけよ」
 遊戯は、城之内の枕元に座った。そっと頬をなでると、その手を掴まれた。引き寄せられる。顔が近い。うすい茶色の目をみると、なぜか遊戯の胸が騒いだ。
 帰りたいのに。
 これ以上、ここにいると訳のわからないことを言ってしまいそうだから、帰りたいのに。
「な?」
 言われたからって、擦って、舐めて。ねだられたからって、従うなんて。どうして、キミの言うことなら、なんでも叶えてあげたくなるんだろう。教えてくれよ、城之内くん。
「泊まってくよ」
 遊戯がそう返事をすると、城之内は安心したように笑った。