◆2
遊戯は、あたまに大きなリボンをつけ、青いエプロンドレスを着込んだ。パニエという白いふわふわしたのも履いた。白いタイツとエナメルの靴はまだ穿いていない。この格好に素足も、妙にエロチックでいいなと城之内は思った。
「足がすーすーする」
正確にいえば股間だ。スカートというだけで違和感があるのに、下着もつけてないのだ。
遊戯はドレスの裾をつまんで、ひらひらと揺らしてみた。やっぱり馴染めない格好だった。ソファに座っている城之内は、上機嫌で笑顔をうかべている。正直にいえば、でれっとしたしまりのない顔だ。
そんなに、この格好が好きなのかなぁ。
男子に着せても、おかしいだけだと思うんだけど。
「ヘンじゃない?」
遊戯は城之内にたずねた。
「いや、すごい似合ってる」
城之内は妙に真面目な顔でうなずいた。
あんまりうれしくないんだけど、その評価。
「タイツはかせてやるから、こっち来なさい」
城之内はちょいちょいと指先で、遊戯を呼びつけた。なんだかなぁと胸のうちで呟きながら、遊戯はソファに座った。
城之内は、ソファから降りてひざまずくと、遊戯の右足を手にとった。遊戯はどこもかしこも小さくできている。本人はコンプレックスだということを知っているが、城之内はその小ささも好きだった。足の指までちいさくて、良くできたオモチャのようで、ドキドキするのだ。赤ん坊のようなピンク色の爪に軽くキスをすると、遊戯が軽く身じろいだ。
「あ、足はくすぐったいから、だめ!」
「はいはい」
白い長靴下をくるくると丸める。ゆっくりとつまさきから穿かせた。遊戯は妙な気持ちでそれを見守った。美容院で頭を洗ってるときに似てるけど、もっと恥ずかしい。自分の身体に関することを他人にやってもらうと、むずがゆいのだ。
あまり抑揚のないくるぶしを通って、ふくらはぎ、なめらかな膝、太ももまでひっぱりあげて、城之内の手がとまった。反対側も同様に穿かせる。それから最後に黒いエナメルの靴を履かせた。
城之内は、ソファに座っている遊戯の姿をじっくりと眺めた。
「完っ璧!」
まじめに女の子にしか見えない。遊戯の体つきが女らしいわけではないのだ。ただ小さくて、肩幅も細い、すとんとした体型をしているから、服で矯正がききやすいのだろう。
そーだよな。女なんて服脱ぐと、胸もくびれもなくなって、びっくりするときあるもんな。
「何、考えてんの?」
遊戯がじっと城之内を見つめていた。
「お、お前のことだってばさ、もちろん」
城之内は遊戯の足を手のひらにのせて、ぴかぴか光る靴に唇をおしつけた。感じるはずもないのに、遊戯がびくりと身体をふるわせる。城之内は満足げに、その様子を眺めた。
やっぱ、こういうの興奮するよな。フェチっぽくて。
滑らかな白い靴下をじっくりと撫であげていく。膝上の、靴下と太ももの間にたどりついたところで、遊戯は、スカートを上からおさえた。
「そっから先はだめ」
「なんで」
「穿いてないの、知ってるくせに」
遊戯は顔を赤らめて、そっぽをむいた。下着は差し出さなかったから、今もまだつけていないのだ。城之内は靴下のゴムと肌の間を、ゆっくりと指先でなぞりながら言った。
「ほんとは、女物のかわいい下着とか欲しかったんだけど、ふりふりのレースのいっぱいついてるようなやつ。高くてさぁ。マジで。こんなちっこいパンツ1枚で、5千円とかすんだぜ? 信じられる?」
「買わなくていいです」
「でも、脱がせるの楽しいじゃん」
どこが楽しいんだよと思いつつ、城之内の指がスカートの中にもぐりこんでくるのを遊戯は止められない。この奇妙な状況に、遊戯だって興奮しているのだ。女装なんて、みっともないし、恥ずかしい。だからこそ、よけいに高ぶってしまう。
スカートの下に手が入り込んだ。太ももを丹念に、大きな手のひらで撫でられる。ゆっくりと中心に近づいてくる。遊戯は身体をきゅっと固くした。それに触れそうになる寸前で手は止まった。
「触ってほしい?」
「……べつにっ」
城之内は声を出さずに笑った。もう少年ではなくて、青年というのにふさわしくなった顔つきにふさわしい笑い方だった。ああ、やばい。ちょっとかっこいいかも。
遊戯は顔をそむけた。城之内は、遊戯の足の間に入り込んで、焦らすように、撫でつづける。白い紗のむこうがわで、遊戯の欲望が育っていくのがわかった。
「服、汚れるから」
城之内は、遊戯にスカートの裾をもちあげるように言った。
遊戯は、泣きそうな顔で城之内を見つめた。
「ぬ、脱いじゃだめ?」
「ダメ」
城之内は、遊戯のやわらかな手を握ると、エプロンドレスの裾をつかませた。反対側の手も同様にする。遊戯の手はしばらく震えていたが、
「ぐちょぐちょにしたいのかよ?」
そう促すと、仕方なくそろそろと両手をもちあげた。咥えて、と指示を出すと、そのままスカートの裾を咥えて、両手を後ろについた。白い透き通るようなパニエがまだ残っていて、その奥に蜜をこぼしはじめた花芯があった。
――倒錯的っていうんだっけ、こういうの。
酒を飲んで酔ってるときより、くらくらする。
なんで、こんなちっこい男にこれほど欲情すんだろ。目で見てるだけで、指先で触れるだけで、声を聞くだけで、どうしようもないほど、興奮する。
セックスはとても気持ちがよくて好きだ。AVでオナニーすんのも好きだ。けど、遊戯だとおかしくなる。遊戯とするまで知らなかった。自慰より風俗より、気が狂いそうなぐらい。今だって。触れてもないのに。突っ込んでもないのに。むちゃくちゃ感じてる。
いつだって不思議だ。
これが好きだってことなの?
だったら、お前はオレでおかしくなんの?
城之内は、白い幾重にも重なる布を持ちあげて、その中に頭を突っ込んだ。
「!」
先端から零れていた蜜をきゅっと吸い上げて、幹をさする。遊戯が甘い声で呻いた。背筋を快感が突き抜ける。言葉にならないあえぎ声が聞こえた。
口を離したあと、指先でちいさな穴を弄りながら、裏筋を何度も舐めた。袋をぱくりとくわえて口の中で、転がしてやる。空いた手をうしろに回して、ちいさな尻を揉みしだくようにして撫でまわす。
舐めてるだけでも、触ってるだけでも足りなかった。もっと触って、舐めて、食い尽くしてしまいたい。たべたい。たべさせて。
「くっちゃうぜ」
舌と指で追いつめると、遊戯は耐えきれないとでもいうように城之内の頭を掴んだ。スカートが落ちてきて、城之内の視界を暗くした。髪がひきつれて痛かったが、城之内はその痛みさえ快感に貪欲に変換して味わった。喉につまる感覚が苦しくて気持ちいい。
出る。出てしまう。
遊戯は唇を噛みしめながら、必死に堪えた。ずるりと生温かい口腔から引き抜かれ、ふっと息をふきかけられた。
「いっちまえよ」
また咥えられ、ぐいっと指先で裏側を擦られる。限界だった。
「あ!」
遊戯が痙攣しながら放出する。
城之内の口の中に苦い味があふれた。城之内はそれをゆっくりと味わって飲み込んだ。ごくりと鳴る音に、遊戯は泣きたくなった。
「飲むなよ」
城之内は顔をあげた。
「だって、好きなんだもん」
「まずいじゃん」
「遊戯のは別」
わかっていても、興奮する。
城之内は遊戯をソファの上に押し倒しながら、唇をあわせた。苦い舌が入り込んでくる。
自分のなんてきらいだ。まずい。なのに、なんで興奮するんだろう。
しばらく何も言わずに二人は舌をむさぼった。城之内の指先が、服の上から遊戯の胸をこねた。
「乳首、固いな」
「なんで、いつも言うのさ」
「遊戯が、いやがるから」
指先で、固く尖った乳首をきゅっとつまんでやる。そうされるだけで、感じる。感じるようになってしまった。遊戯は羞恥心でいっぱいになった。さっきだしたばっかりなのに、もう勃ってる。
「オレもしたい」
城之内は自分の腰をこすりつけた。固いものが服越しに遊戯にあたる。城之内のズボンの前は、はち切れそうなほどふくらんでいた。
「な、なめようか?」
それも魅力的な提案だったが。
「入れるほうがいいな」
城之内は、遊戯をソファの背に捕まらせ、軽く腰を突き出すような格好にさせた。スカートをめくりあげて、小さな尻をあらわにする。遊戯は白い靴下を穿いた足をもじもじと擦り合わせた。さっきの行為の名残で、狭間がてらてらと濡れ光っている。
城之内は始める前にテーブルの上にだしておいたチューブをとった。潤滑剤をたっぷり手に取る。少し手のひらの上であたためたあと、遊戯の窄みに直接塗りつけた。
「ひゃっ……!」
城之内の指先が後孔を何度も撫でる。ゼリーが体温でとけて、ぐちゅぐちゅとそこを濡らしていく。遊戯のそこはやっぱり狭い。入り口を濡らし終わると、城之内は人差し指をゆっくり突き入れた。
「んんっ……!」
最初は指一本でさえ飲み込むのに苦労する場所なのに、ゆっくりと広げてやると、オレのアレでさえくわえ込んできつく締め付けてくるのだ。指先に圧力がかかる。城之内は自分のジッパーを下ろしながら、指をふやし、ゼリーを塗り込んだ。内壁をひろげていくむずがゆいその動きに、遊戯がいやいやをするように身体をくねらせる。
「やらしい」
「城之内くん……!」
遊戯が泣きそうな顔で、こちらを振り返る。首筋にキスを落としながら、尻を割りひらき、自分のモノを当てた。ああ、オレだって濡れてる。ぐちょぐちょに物欲しげに濡れそぼってる。
入る。
「んっ!」
入った。
遊戯のそこはきつくて、たっぷり濡らしたはずなのに、力を入れないと動けない。ぎゅっと絡みついてくる内壁の威力はとんでもなく良かった。ぴったりすきまなくくっついているみたいな密着感。気持ちがいい。いつだって、いい。
「遊戯」
青いエプロンドレスごと後ろから抱きしめて、名前を呼んだ。遊戯が震える。快感が、身体の内側から押し上げられてくる。
「城之内くん」
遊戯はあえぎながら、城之内の名前を呼んだ。城之内の動きが一層激しくなった。ふくれあがった部分で一定の場所を擦られると、火花がでそうなほど感じた。とけたゼリーと体液がまじって、ぷちゅぷちゅと粘着質の淫靡な音がひびく。
もっと奥に。全部。オレのモノ全部。アレも精液もぜんぶ。
どうにかなってしまう。
遊戯は耐えきれずに首をはげしくふった。ソファに指先がぎゅっとめり込む。
「やだ……いい、いいよぉ……! 城之内くん……!」
城之内は欲望を解放した。
*
快感の余韻か、遊戯はソファに横たわったまま、ぼんやりと視線をさまよわせている。
城之内は、冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取りだすと、一気にそれを飲み干した。もう一本とりだして、遊戯の頬に当てる。
「ひゃぁ!」
「ぼーっとしてっから」
笑って、飛び起きた遊戯のとなりに座る。遊戯はなんだよーと反論しながら、水をごくごくと飲んだ。火照ったからだに、冷たい水は心地よかった。
なんだか、今日はしょっぱなから激しかったなぁ。遊戯は記憶を反芻して顔をあからめた。時間もあるし、場所だって問題ない。いきなりソファで始めなくてもよかったよな。切羽詰まってるわけじゃないのにさ。
「ベッド行ってからやればよかったね」
「これからすればいいじゃん」
遊戯は、城之内の顔をみた。
「まだ、すんの?」
「あれで終わりにすんの!?」
いや。別にいっぺんで終わりにしなくてもいいけどさ。いいんだけど。でも。
「まだまだ、やってほしいこといっぱいあんだよな。見てくれよ、オレちゃんとリスト作ってきたんだぜ!」
バッグからメモらしきものを取りだして、誇らしげに見せびらかす城之内を見て、遊戯は不安になった。やけに、びっちり書いてあるんですけど。なんですか、その量は。
「拘束具のかわりに、ベルトもってきたぜ!」
生活の知恵だよなって、そんなことを自慢するな。
今日、眠れるんだろうか。ボクは。
遊戯は苦笑した。結局のところ、付き合う気満々なのだ。
どうしようもないな、ボクも城之内くんも。
ベッドまで運んでくれたら、続きをしてもいいって言おうか。
それとも別の条件をだそうか。
好きだって。無邪気に笑って。
END.
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