今回は性的描写があります。
城之内×遊戯です。
ご注意ください。
◆3
城之内の家は冷えていた。風が吹き込まない以外は、外とたいしてかわらない寒さだ。家はからっぽだった。誰もいなかった。
「お父さんは?」
「この時間いないなら、帰ってこねぇよ」
城之内は、けり飛ばすようにスニーカーを脱いで、さっさとあがり、電気をつけた。ぱちぱちと蛍光灯が鳴って、清潔とはいいがたい室内を照らし出す。プラスチックのうすい空き袋や、4リットルの焼酎のペットボトルがからんと転がっている。部屋に飾ってあるものといえば、新聞社の名前の入ったカレンダーぐらいで、あとは何もなかった。あたたかな、やわらかいものと縁のない部屋だった。空虚さが満ちているのに、どこか饐えたような、なにかが腐食したような匂いがした。
遊戯はブーツを脱いで、あとにつづいた。
奥にある和室には布団が敷きっぱなしだった。万年床になっているらしい。城之内はその上にあぐらをかくと、遊戯に「来いよ」と声をかけた。
「暖房ねぇし。寒いから」
遊戯は戸惑いながら、城之内の前に膝をついた。布団は湿っていて、冷たい。そのまま城之内の顔をみつめる。苦しそうな顔をしていると、遊戯は思った。
「無理、しなくていいよ」
城之内に大切にされている。それは、とてもうれしい。だけどキスも、セックスも、ボク相手にすることじゃない。それは城之内くんが好きになった相手にすることだ。
それなのに、欲しがっている。
ボクは、ずるい。
とても、ずるい。
城之内くんがほしい。
「無理じゃねぇよ」
手をぐいっと引かれ、抱き込まれた。犬の子供のように、城之内は鼻面を、遊戯のほそい首に擦りつけられた。くんと吸い込むと、やわらかな、あたたかさが身体の中に満ちるような気がした。そうだ、餓えていたんだ。城之内は思った。
遊戯の体温がずっと欲しかった。
「やっぱ、お前あったけぇな」
「城之内くんだって、あったかいよ」
凍り付くような冷気でよどんだ部屋の中では、お互いの体温だけが頼りだった。
これぐらいの接触は、ちょっと前までは、よくやっていたことだった。城之内に触れて、その熱を感じるのは心地よいことだった。
どうして、それ以上欲しくなるんだろう。
城之内が頬を擦りつけてきた。唇がふれる。ほほに触れる。耳たぶにふれる。まぶたにふれる。
遊戯は目をあけて、城之内の顔を見つめた。
「キス、すんぞ」
「うん」
唇がふれあった。はじめての感触は、とてもさりげないものだった。
「はじめてした」
「そっか」
ずっと、こうしたかった。してはいけないものだと、思っていた。してみたら、もっとしてほしくなった。したくなった。遊戯は城之内の頭に手をまわし、自分に引き寄せた。キスは簡単だった。
「気持ちわるくない?」
遊戯はたずねた。城之内は馬鹿だなと言った。
「わるくなんか、ねぇよ」
ちいさく安堵のためいきをつく。すこしだけ、ほっとした。
こんなに簡単な行為なのに、どうして好きなひとじゃないと、したくないんだろう。
好きだとしたいんだろう。
なんども唇をかさねているうちに、城之内の荒れている唇がやわらかくとけてきた。遊戯はおそるおそる舌で、うすい唇を舐めてみた。城之内もおなじように舌を出して舐め始めた。舌同士の感触はざらりとして、濡れていた。するりと入り込んだ口腔は熱くて、滑らかだった。城之内の舌が、遊戯のそれを捕らえた。きつく吸われると、頭の芯がぼうっと熱を帯びた。くらくらする。遊戯は夢中で、城之内の舌に吸い付いた。
城之内は、遊戯の身体をまさぐった。フェイクファーのジャケットをすべりおとして、まるい肩口に唇を落とした。タンクトップの裾から手をいれる。
「冷たい」
ひえた城之内の指先に、遊戯の身体はこわばった。
「ごめん。いやか?」
遊戯は首を振った。
「ぜんぜん」
ぜんぜん、イヤじゃない。それどころか、うれしい。キスをして、触れてもらって、それだけで、うれしくてしかたないのだ。ごめん、城之内くん。ボクはうれしいんだ。ごめん。ごめん。城之内くんは、こういうのイヤなはずなのに。ごめん。
「もっと、さわって」
その言葉を聞いたとたん、城之内の身体に火がともった。まぎれもない欲情だった。城之内は、遊戯を冷たい布団に押したおし、服をぬがせた。鋲をうったベルトをゆるめて、下着ごと引きずり下ろす。
「城之内くん!」
打ち身になったところが擦れて、痛かった。
ちいさな声を押し止めるように、唇でふさいだ。むき身の白いからだは、熱くすべらかで心地よかった。ほかに温かいものはなかった。城之内は暗闇でともしびを求めるように、遊戯のちいさな身体にすがりついた。胸の突起を女にするように甘噛みしながら、下半身を触れ合わせる。自分のペニスをとりだし、遊戯のそれとかさねて擦り合わせた。熱い。先端からは、すぐにとろとろと蜜があふれ落ちて、手と身体を汚した。
遊戯。遊戯。名前を呼びながら、腰を重ねて快楽を求める。そりかえった部分が腹にこすれた。ふたつの欲望を握って、はげしく擦り合わせた。寒さはもう感じなかった。くらくらするほど、熱かった。城之内は横臥して、遊戯の片足をあげさせた。濡れた欲望がからみあって、さらに熱い液体をこぼした。
遊戯は何度も喘ぎなら、城之内の名前を呼んだ。もっと呼んで欲しい。痛切に城之内は思った。細い腰をぎゅっと引き寄せる。名前をよんでくれ。オレの名前をよんでくれ。それで、イッて。
オレの名前をよんでイッて。
遊戯は高くあまい声をあげた。ぽたぽたと身体に熱いものがこぼれおちた。遊戯の精液だった。城之内もそのあとすぐにいき、遊戯の下半身をよごした。ふたりは喘ぎながら、だまって布団に横たわっていた。
呼吸がすこし落ち着くと、城之内は自分の腹にだされたものを指先ですくいとった。とろりとしたそれは、自分がいつも吐き出しているものと変わらなかった。舌先で舐めてみると、遊戯は泣きそうな顔で、だめだよ、と言った。
「なんで、だめなの?」
「き、汚いし」遊戯はあたりを見回して、ティッシュの箱を手に取った。「ボクのなんて、汚いよ。ごめん」
城之内はかぶりをふった。
「べつに汚くねぇよ。出るのあたりまえだろ。男なんだし」
自分だって毎日のようにだしてる。
「そ、そうだけど」
顔を真っ赤にしながら、遊戯は城之内の手をぬぐった。ごめんねと何度もつぶやく。城之内はその手をとって、ちいさなまるい指先を口で銜えた。長い舌で、ぺろりとやわらかな手のひらを舐める。指の股のやわらかいところを刺激する。くすぐったかったのか、遊戯は裸身を軽くすくめた。
「城之内くん?」
遊戯の唇を、自分の節くれ立ったゆびさきでなぞった。中指の第一関節だけを、そっともぐりこませる。
「なめて」
お前がイッた、オレの手を舐めて。
遊戯は泣きそうな顔をしながら、城之内の言うとおりに指先をくわえた。ちゅっと小さな口で、先端をくわえたあと、丁寧に舌でなめあげていく。無心に指先をなめている姿は、フェラチオを彷彿とさせて、城之内の腰はじんとしびれた。
「も、いい」
城之内は濡れた指先で、遊戯の下半身にふれた。双丘を開いて、そこに指の腹をあてる。さきほど吐き出した城之内の精液が、ゆっくりとながれている。すくいとって、潤滑剤代わりにした。指先を入れると、ぐちゅりと淫猥な音がした。
遊戯はぎゅっと、城之内の上半身にしがみつき、顔を埋めた。むっと自分の吐き出したモノの匂いがする。城之内の腹にだしてしまったものの痕跡だった。遊戯はもうしわけないような気持ちになった。すこしでも奇麗にしようと、ピンク色の舌で、城之内の筋肉のついた腹を舐めた。つたないむずがゆさが、さらに城之内の性感をたかめた。
指先を何度も出入りさせているうちに、城之内の下半身はふたたび堅さを取り戻した。自分の指先ひとつで、遊戯が身体をよじる。苦痛か快感か――それは城之内にはよくわからないけれど、初めて襲ってくる感覚に堪えているさまが、たまらなくよかった。全能感に似たものが心を刺激した。それとも支配欲なんだろうか。城之内はきつく目をつぶる遊戯の顔をみながら、愛撫をつづけた。
指をふやし、中をさぐっていく。だんだんとそこはほぐれて、楽に指を受け入れるようになった。指のうごきを激しくすると、遊戯が極端な反応をする場所をみつけた。城之内は、そこを執拗になぶった。遊戯は耐えられないとでも言うように、自分から腰を城之内の膝に押しつけて動いた。
すげぇ、かわいい。
ちいさな生き物が自分にすがりついてくるようで、それが遊戯で、気持ちよくなってるんだと思うと、たまらなくなった。愛おしさと、快感でいっぱいになった。オレ、死ねる。城之内はそう思った。いま、なんか死にそう。あたまのなかと、むねがいっぱいで、どうにかなる。しにそう。いきたい。いれたい。
遊戯を四つんばいにして、そのまま後ろに当てた。
「あっ……!」
ひそやかなペニスの根元をぎゅっとにぎりしめた。
先端がずるりと遊戯の中にすべりこむ。遊戯は苦痛に身をよじった。城之内はそれを押さえ込んで腰を進めた。ふくらんだ部分を押し込むのに時間がかかったが、それさえすぎればあとはスムーズに入り込んでしまった。
「すげぇ」城之内は言った。「ぜんぶ、入っちまった」
根元まで、ずっぽし入ってる。卑猥な言葉を耳元でささやくと、遊戯は泣きそうな顔をして、唇を噛みしめた。熱くて、やわらかくて、きつくて、たまらなかった。城之内は耐えきれずに腰をうごかした。
「痛い?」
首を横にふる。その動作とは裏腹に、身体はこわばったままだ。ゆるゆるとペニスをしごいてやると、少しだけからだの緊張がとける。快感と苦痛がないまぜになって、遊戯を襲っていた。ペニスの先端が、布団に擦れる。気持ちいい。後ろから城之内くんが抱きしめてくれる。身体は引き裂かれそうだと思うのに、それがうれしかった。気持ちよかった。
「う、うごいて」
ボクで、して。
ボクで、気持ちよくなって。
「んなこと言うなよ。おかしくなんだろ」
城之内の答えに、遊戯は戸惑った。やっぱり、男のボクにするなんて、だめだったんだろうか。気持ちわるかったんだろうか。
ごめん。
「ご、ごめんね」
ボクばっかり、うれしくて、ごめん。
好きでもないのに、無理矢理させてごめん。
ずるくて、ごめん。
熱い涙があふれて止まらなかった。気が付かれないように、顔を布団に押しつける。嗚咽を殺しながら、遊戯は、心の中で城之内に謝った。
好きになって、ごめん。
「痛いか、遊戯? 悪い。もちっとで、イクから」
「へ、へいき」
城之内は、遊戯の葛藤に気が付かないまま身体を動かした。遊戯のちいさな身体もゆらゆらとゆれた。膝頭で体重を支えきれずに、崩れ落ちた。揺さぶられ、むさぼられる。身体がばらばらになりそうだと遊戯は思った。城之内は無心で身体を動かした。ふつふつと汗が吹き出る。熱くて熔けそうだった。
城之内は深く遊戯に入り込みながら、丸みを帯びた肩に噛みついた。
「遊戯」
名前をよんで、そこで果てた。
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