遊戯の目元に滲んでいた涙の味は、なぜか甘く感じた。しょっぱいのが当然だし、実際舌ではそう感じているのに、上物の酒でもなめたみたいに甘かった。脳みそがとけそうだ。
 オレは遊戯の頬を両手で包み込んだ。視線を交わす。どちらからでもなく目を閉じてキスをした。やわらかい唇の間に舌をするりと潜り込ませる。遊戯のほうもだんだん舌をからませてくる。その反応がたまらない。
 オレは夢中で遊戯の舌をむさぼった。抱き合って居間の床でごろごろ転がりながらキスをした。遊戯が喘ぐように顔をあげると、その頬にキスをした。まぶたにキスをした。ちっちゃな鼻にもキスをした。それからまた唇にキスをした。舌先を丹念に吸った。溢れてくる唾液を吸うと、これも甘くてクラクラする。どうして、こんな風に思うんだろう。甘いわけなんてないのに。
 遊戯に覆い被さったまま、ぎゅっと細い身体を抱きしめた。
「すげぇ、好きだ」
 そうささやくと、遊戯が目を開けてオレを見た。でっかい目。
 お前に見てもらうの、好きだ。見てるのも好きだけど。
 ああ、そうだ。オレは遊戯がすげぇ好きだ。
 そう思うと、腹の底からじわじわとした熱みたいなものがこみ上げてきた。
 キスしたり、身体を触ったり、したい。
 エロビデオのねーちゃんがやってるみたいなことさせたい。
「セックスしたい」
 あけすけ過ぎるかもしんないけど、その時はそんなことを考えてる余裕はなかった。オレの下にいた遊戯は、ちょっと困ったように眉をひそめた。
「だめか?」
 じっと遊戯の顔を見つめる。
 遊戯は目をつぶって、口の中で小さく呟いた。よく聞こえなかったけれど、まったくとか、もう!とか、そんな感じの言葉だった。
 キスまでならいいけど、そっから先はイヤなんだろうか。ダメなんだろうか。やっぱり男に突っ込まれるのは抵抗あるんだろうか。そりゃそうだよな。しかも遊戯初めてだろうし。いや、初めてだよな? それは間違いないと思うけど。
 遊戯の言葉を待っていると、しょうもない考えが頭をぐるぐると回る。ケンカやデュエルのときなら、どんなに負けそうなときでも怖くはないのに。正直、自分だけだったらどうなってもいいと思う。ケンカで負けようが、デュエルで負けようが、誰も見ていないのなら、どうなったって構わないことだ。
 でもお前が見てると別だ。
 遊戯。
 遊戯が見ていると、オレは安心する。どんよりと霧でぼやけていた景色がはっきり見えるみたいにクリアになる。何も怖いものが無くなる。デュエルだったら負けてられないと胸が熱くなるし、お前のために身体を張るのなんてカンタンなことだ。何でも出来るような気がする。
 目を開けてオレを見ていてほしい。
 なめらかな頬に手をあてて、遊戯の名前をちいさく呟いた。
 遊戯は目を開けた。
 それから少しの間、遊戯はじっとオレを見つめた。オレも遊戯を見た。遊戯の顔を見るのは好きだ。すげぇ美人とか、奇麗だとか思わないけど、やわらかいほっぺとか、でっかい目とか、ちっちゃい鼻とか口とか、ほっそい首とか、ツンツンの髪まで、全部めちゃくちゃカワイイって思う。それとも好きだから、そう思うんだろうか。
 遊戯はオレのこと、どう思ってくれてんだろう。けっこうハンサムだとか、格好いいとか、好きだとか思ってくれるてんだろうか。
 
「しよっか、城之内くん」
 
 そう言って遊戯が笑った。





 居間でするのはイヤだから!と抵抗されて、遊戯の部屋に行った。シャワーを浴びたいとか遊戯は言ったけど、そこまでは我慢できなかった。待ってられるか。
 ベッドの上にちいさな身体を押し倒す。ぽふんと、オモチャみたいに遊戯は倒れ込んだ。
「ちょっと待ってよ、城之内くん」
「待てねーよ」
「まだ電気も消してないんだぜ?」
「そのほうがいいじゃん」
「あのね!」
 オレはキスをして遊戯の口を塞いだ。腰のベルトを外そうとしたけれど、遊戯のベルトはやけにごつくて、片手では外しづらかった。諦めて起きあがって、ベルトに手をかける。ベルトのあまりが腰を半分ぐらい巻いていた。ほっそいよなコイツ。
 ズボンを引っこ抜くと、なめらかな下半身が露わになった。下着と靴下だけってのは、えっちっぽいよな。この格好が恥ずかしいのか、遊戯は顔を真っ赤にして、掛け布団をもぞもぞとたぐりよせて顔を埋めた。かわいい。
 靴下をとって、ちっちゃな足の指にキスをした。小指なんてほんと豆粒みたいだ。ふーっと足の裏に息を吹きかけてやると、くすぐったかったのか釣り上げた魚みたいに身体をくねらせた。
「城之内くん、やめてよ!」
 布団の中からくぐもった声がする。
「ん」
 オレは生返事をしながら、足の裏の土踏まずをぺろりと舐めた。
「ひゃ!」
 遊戯がばたばた動く。
 やべぇ、楽しい。
 遊戯にさわってんの、楽しい。
 何度か同じことをやってると怒るよ!という声が聞こえてきた。ごめんごめんと謝りながら、滑らかな踵にキスを落とす。それからくるぶし。すべすべした白いふくらはぎを舐める。むずがゆいのか、遊戯は身体に力を込めている。
 オレは、足をもっと持ちあげて、膝の裏のやわらかい部分をきゅっと吸い上げた。静脈が青く透けている。
「あっ!」
 予測してなかったのか、それともそこの感覚が刺激的だったのか、遊戯は艶っぽい声をあげた。
「ここ、感じる?」
「わ、わっかんないよ!」
「そっか」
 じゃあ、試してみるか。
 オレは何度か膝裏をきつく吸って跡を残したあと、遊戯のすんなりした両足を自分の両肩に担いだ。遊戯の腰が軽く浮いたので、安定させるように枕を突っ込んでやる。遊戯は相変わらず上半身を布団に突っ込んだままだった。ぬっと突き出た左手が顔らしい部分を押さえている。
「遊戯のあそこ、すげぇことになってる」
 目の前にある下着に包まれた部分は、固く屹立している。でっかいってほどじゃないけど、やっぱり男なんだなぁって思う質量をしていて、オレは妙に感心した。下着のその部分は濡れたように変色している。
 しょっぱなから凄い格好させてるよな、オレ。
「すごいって、なんだよ」
「濡れてるってこと」
「城之内くんのバカ!」
 バカと言われても顔がにやけてしょうがない。
 じんわりと太腿を撫でて、内ももの部分に舌を這わせる。遊戯の皮膚は子供みたいで、ぴったりと吸い付くように滑らかだった。唇にふれるその感触が気持ちいい。足の付け根の部分まで顔を近付けると、遊戯の右手がぱたぱた揺れてオレを遮った。
「もうそのぐらいでいいよ」と遊戯。
「どうして?」
「恥ずかしいからさ」
「もっと恥ずかしいことすんだろ」
「ボクがしてあげてもいいんだぜ?」
「それは今度な」
 オレは下着の上から、遊戯のそれを軽く甘噛みした。