「本田君、おそいねー」
 オレはいっぺん家に帰ってから、遊戯の家に遊びに来た。遊戯のお母さんがつくっておいてくれたカレー(ちょっと甘口)を食べたあと、腹ごなしにテレビゲームなんぞしていたんだが、本田がいつまでたっても来やしない。
「電話してみろよ」
「うん」
 遊戯はうなずいて、連絡表をみながら電話をかけた。電話の前のカベに張ってあるその表には、オレの名前のところに印がついていた。それをみて、なぜか顔がにやけた。印は本田と杏子と獏良にもついてたけど。でもやっぱ、特別ってうれしいよな。なんかさ。遊戯になら、特にさ。
 でれっとしていると、受話器をもった遊戯がふりかえって言った。
「やっぱりダメだって」
 お姉さんがお出かけしてしまい、急遽甥っ子の世話を本田が見る羽目になったらしい。クソガキを相手にして、ほとほと困ってる姿が目に浮かぶ。
「しょうがねぇな、じゃあ先に見ておくって言っとけよ」
「うん」
 電話の向こうで本田が嘆いているようだが、しょうがない。また見る機会なんていつでもあるだろう。本田の悲嘆よりもビデオの内容の方が気になる。オレは正直な人間なのだ。カバンから茶色の紙袋を取りだして、がさごそとDVDのパッケージを出した。
 本田が自慢していただけあって、パッケージの女はそこそこ美人だった。化粧はそんなに派手ではなくちょっと清楚めいた感じがする。眉をひそめた顔が色っぽい。色が白くて、腰が細いくせに胸がむっちり大きくて、唇もぽってりして、えろい。
 いい好みだ。男ってやっぱこういう女がスタンダードに好きだよな。これは期待ができそうだ。遊戯が本田の愚痴を聞いてる間に、DVDをデッキにセットしておく。
 よし、これで準備OKだぜ!
「気合い入れすぎ」
 いつの間にか電話を終えた遊戯がそう言った。手にはビールの缶をもっている。
「飲むでしょ?」
「もちろん! つか、酒飲めるの、お前?」
「失礼な。ボク、けっこうお酒強いよ」
「マジ?」
「じいちゃんの晩酌、付き合ってるもん」
 そうは見えないんだけど。まあビール一缶ぐらいなら、酔っぱらったところで問題ないだろう。オレはプルトップを開けながら、リモコンの再生スイッチを押した。





 ムードを出すために暗くした部屋の中、テレビからの灯りが煌々とオレたちを照らしている。
「……………………けっこういいな」
「うん……、いいよね………」
 真面目に、いいAVだった。肝心の通常ならモザイクがかかってる部分は、身体で隠されているところが多く、その点はこれで無修正なんて誇大広告!と思わなくもなかったが、女優の演技はけっこうなもので、そらぞらしいところがあまりなく、あえぎ声が色っぽかった。局部見えればいいってもんじゃないよなー。
 むっちりとした尻が画面で淫猥にうごめく。
 隣にいる遊戯がごくんと唾を飲み込む音がする。もぞもぞと動いて、落ち着かない。
 勃起してんのかな、やっぱ。
 遊戯のやつはチビで、本人に言ったら怒られるから言わないが、小学生と見まがうぐらいの体格をしている。そんな遊戯でも俺たちと仲よくエロ話はしてるし、そっちへの興味はあるのは知っている。しかし、ガキっぽいことは否めないわけで、そんな遊戯がどんな表情でエロ動画を見ているのが、気になってしょうがなかった。
 オレはそっと隣の遊戯の表情を盗み見た。
 遊戯は真剣に画面を見つめ、顔を紅潮させながら悩ましげに吐息をもらした。ちろりと舌でなめ回した唇が濡れてひかっている。股間を見てみようと思ったけれど、うまい具合に下ろした両手で隠されて、どうなっているかわからない。でも隠してるんだから、立ってんのかな。
 気にする必要ないんだけどさ。
 ぬちゅりと卑猥な音をたてて画面の女が男に貫かれる。快感を堪えるような甘い嬌声があがる。声を出すのを我慢しているのに、耐えきれずに出てしまったような、演技にはとうてい見えない、腰がずんと熱くなるようなえろい声だった。
 はぁ、と隣から吐息がもれる。
 遊戯の声だった。
 これはまずいと、オレは思った。
 遊戯の吐息はテレビの女みたいに甘かったからだ。耳たぶや首筋にかみついて、もっと声をききたくなるような声だ。オレは頭を振って立ち上がった。
 何考えてんだ、オレ。
「城之内くん?」
 いぶかしげな遊戯に「トイレに行ってくるから」と返答する。いっぺん抜いてくれば、落ち着くだろう。他人様の家でそういうのどうよと思うけど、非常事態だし。さすがに目の前で抜くのは、ちょっと。
「どうして?」
 遊戯がたずねる。いや、そんなこと言われてもさ。
「もしかして、感じてるの?」
 オレは目をぱちくりとした。じっと遊戯を見つめる。暗い部屋の中で、白いやわらかな頬がテレビの光で照らされてる。逆光状態の遊戯の表情はよくわからない。
「ボクも感じてるんだけど」
「そ、そっか」
 そらそうだよな、なんて口ごもって、もごもごと返答する。
「一緒に、してみない?」
 オレは硬直した。