昼休みつーのは、代わり映えがしない。
 天気が良かったせいか、屋上には、他にもぱらぱら人が居た。いつものようにオレと遊戯と本田とでメシを食っていた。作ってくれるやつがいないオレは購買でパンが基本だが、遊戯は大抵弁当をもってくる。本田は半々ぐらい。
 一緒に昼飯を食べてると本田や遊戯からお裾分けをもらえたりする。けっこう嬉しかったりする。他人がつくってくれた手料理つーもんに飢えてるからさ。
 オレも自炊はしてるんだけど、手早くつくれる炒め物、鍋にぶちこんでおけばいい煮物が基本で、手の込んだ料理はしない。
 今日はピーマンの肉詰めをもらった。遊戯のやつ、ピーマンはちょっと苦手なんだそうだ。うまいのに。
 箸は持ってないから、口をあーんとあけたら、遊戯もノリ良く「はい、あーん」とオレの口に突っ込んでくれた。実はこれ、好きなんだよな。遊戯にあーんしてもらうの。ちっちゃい子が一生懸命大人ぶってるみたいでさ。
 あ、そう思ってるのは、遊戯には内緒な。
 遊戯がチビで一見小学生にまちがえられそうなサイズだからといって、中身は大人なのはちゃんと知ってる。中身っつか、人間として。少なくとも、オレより大人なのはまちがいない。でも、ちっこくて、かわいいなーと思ちゃうときがあるのは、しょうがないだろ。
 もう一人の遊戯にはそう思ったことがないんだけどな。
 同じ身体のくせに面白いよな。
「おいしい?」
「おう、んまいぜ」
 口直しにペットボトルのお茶を飲んでいると、じとっと本田がこっちを睨んでいた。
「なんだよ、本田」
 なんかヘンなことでもしたか、オレら。
「いや……別にいいけどな」本田は遠い目をした。「そこに突っ込んだらオレの負けのような気がするし」
「なによ、それ」
 よく意味がわからんのだが。
「いや、それより頼みがあってさ」
「頼み?」
 本田はカバンから茶色い紙袋に入った包みをとりだした。そんなにでかくはない。うすっぺらいし、本か何かだろうか。オレと遊戯は興味津々でそれを見つめた。
「DVD」と本田。
「映画?」と遊戯。
「エロ?」とオレ。
 本田はうなずいた。やっぱな。本田がもってくるブツなんてたいてい想像がつくぜ。
 オレは紙袋の口を開けて中をのぞきこんだ。たしかに女の裸のパッケージだ。遊戯がボクにも見せてよとつついてくる。おまえ、けっこうえっちなの好きだよな。
 つづけて本田は「無修正」とぼそっと呟いた。
「む、無修正!?」
「うわ、バカ遊戯ッ!」
 オレはでかい声を出した遊戯の口をあわてて塞いだ。他のやつらの話し声もざわざわとうるさくて、オレたちの行動はそれほど目立っていない。近くでメシをくってた奴らがふりかえったぐらいだった。オレは曖昧な笑みを浮かべて適当にごまかした。腕の中で、遊戯がもごもごともがいている。
「放してやれよ、城之内」
「ああ、ごめんごめん」
 手をはなすと、遊戯はふーっと大きく息をついた。落ち着いたところを見計らって、本田が話を再開する。本田曰く、ツテをたどり無修正のエロビを手に入れたのはいいのだが、現在家には姉が里帰り中で、甥っ子のチビガキが部屋を荒らしまくり中であり、家に安住の地がないというのである。
「ったく、たまんねーよ。勝手に部屋に入ってくるしさ。おちおちエロ本も読めねーもん」
 ベッドの下や枕もとまでチェックされているそうだ。おかげでエロ本が何冊か消滅したらしい。
「だからさ、預かって」
 語尾にハートマークつけてお願いされても、本田じゃかわいくないよな。
 先に見てもいいなら、もちろんOKだぜと返答すると、本田は困ったような顔をした。せっかく手に入れたDVDを先に人に見られるのは、やるせない気持ちらしい。気持ちはわからんでもないが。遠慮する気にはなれない。
「じゃあさ、ボクの家で見ない?」
 遊戯によると、この週末、お母さんもお祖父ちゃんも出かけていていないそうだ。
「一緒にでかけてんの?」
「ううん、別々」遊戯は首を横にふった。「お母さんはクラス会ついでに羽を伸ばしてくるんだって。じいちゃんは、ゲームの買い付け」
 海外でやる見本市みたいのがあって、そこに出かけていくらしい。意外とインターナショナルなじいさんだ。あんな小さい店なのにペイすんのかなと思うんだが、道楽でやってるようなものだから、そういうところは採算度外視なんだそうだ。
「いいな、それ」
 本田が満足そうにうなずく。オレも異論はない。
 エロビデオみるのが嫌いな男なんていません。
 上映会を楽しみにしつつ、オレは遊戯の弁当のデザートをつまんだ。
 苺だった。