男ひとりでもせまっくるしい場所に、二人で入って密着する。いつ誰が来るともわからないのに、抱きしめて顔をあげさせて、遊戯の口にかぶりついた。
遊戯とするキスは、やべぇぐらいに美味いと思う。やわらかい唇の感触は、これまで知ってたどんな女の味とも違っていて、みずみずしい果物みたいだなと思う。桃とかさくらんぼとか。めったに食えないけど。ああ、そうか。口紅つけてないもんな。すっぴんの女とキスしたことがないわけじゃないけど、夜が明けて一晩たってからのキスなんて想いださない。始める前のキスが頭に残る。
オレの口の中で、舌先がもごもごとうごいた。何かんがえてるの城之内くんって、それってテレパシー? もう一人の自分なんてのがいるやつには、そういう能力があってもおかしくないような気がする。もし遊戯にオレの中を全部見られたらどうなるんだろう。高層ビルのてっぺんから、地表をのぞき込むような気持ちになる。オレは必死に遊戯にすがりつく。
唇を放して、蓋を下ろしたままの洋式便器にすわりこむと、遊戯を向かい合わせに抱きかかえる。対面座位の格好。遊戯の顔が見えて、けっこう好きだ。後ろから抱きかかえるのも好きだけど。
オレはべたべたくっつくのが好きだ。遊戯相手だと特に。首に手を回したり、肩を抱いたり、腰を抱いたり、手をつないだりする。一番好きなのは、手をつなぐことかもしれない。最初は、ちいさな子供みたいで気恥ずかしかったけど、遊戯のやわらかい手がぎゅっとオレの手を握ると、それだけで心の中がほっこりする。すげぇ好きだと思う。
今日も夕焼けの中の帰り道、そんな風にして手をつないでいた。イタズラ心を出して、オレのごつい手で、遊戯の指のまたのところをくすぐってやると、とたんにぴくんって反応した。面白い。かわいい。屈んで耳元でささやいてやると、城之内くんだってかわいいくせに!と怒った顔をした。そのふくれっつらがまた可愛いなと、にやけていたら、遊戯のやつはオレの手をひっぱり、指をぱくんとくわえた。指の先をちゅっと吸ったあと、赤い舌先をやわらかい部分に滑らせる。指をゆっくりとねぶったあと、てのひらをべろりと舐めた。上目遣いのその視線に、オレはぞくぞくと震えた。たまんない。
普段は、どうしても遊戯をお子様扱いしてしまいがちなのに、こういうときだけオレより百戦錬磨みたいな表情をみせる。
ほら、城之内くんだってかわいいじゃん!と言う遊戯をひっつかまえて、公園のトイレにかけこんだ。
あのね、城之内くん!というちいさな抗議を気にもせず、顎に噛みついた。それだけじゃたりなくて、ごつい首輪をはずす。いつも思うけど、えろいよな、この格好。遊戯が子供っぽい容姿をしてるからカワイイですまされるけど、オレがやったら変態だ。
遊戯のほっそい白い首があらわになる。のどぼとけもない。私服着ていっしょに歩いてたらカップルにまちがえられるかもしんない。どっちかというとおにーちゃんと妹かもしれないけど。遊戯は女の子っぽいってわけじゃない。顔だけなら獏良のほうが美人だし女顔だと思う。子供っぽいんだ。
背が小さいだけじゃなくて、まだ未成熟な、子供みたいなかんじがふんだんにして、それだから男っぽく見えないんだろう。でも中身は男だ。オレよりよっぽど強くて、よっぽど男らしい。なんてアンバランス。遊戯とこういうことしてると、小さい子に悪戯してるみたいな気持ちと、なんでもわかってる大人に甘えてるみたいな気持ちが入り交じって、無性に興奮する。頭に血が上る。やばい。
喉だけじゃたりなくて、服をめくり上げて、うすい胸にくらいつく。ちいさなピンクいろした乳首は、なんだか子猫の肉球を連想させる。唇と指先で、執拗に弄っていると、いいかげんにしてよと熱の籠もった声で呟かれた。遊戯の手がオレの股間に伸びる。ジッパーを下ろされて、中に遊戯の手がもぐりこむ。とっくに勃起してたから、すぐにそれは取りだされた。ゆるく根元の部分から擦り始められる。
何度しても、遊戯からそういう部分に触られるとオレはとまどう。してはいけないことをしているみたいで。無茶苦茶興奮する。
それは遊戯のことをどっかでオレは神聖視してるからなんだろう。美しい女人のような仏像でオナニーしてたお坊さんの話をどっかで聞いた(たぶん獏良だろう)ことがあるけど、その気持ちはちょっとわからなくもない。
オレは遊戯のことが好きで、すっごい好きで、信頼していて、本当にどうしようもないほど好きで、この気持ちが好きっていうんじゃなかったら、きっと一生誰にも恋なんてしてないし、しないだろうと思うぐらいに好きだ。
どうしようもないぐらいに好きだ。全身全霊で好きだ。世界で一番好きだ。セックスなんて本当はしたくないぐらいに好きだ。
オレは自分たちのことを恋人同士だと思ったことはまだない。恋愛関係はいつかは冷めて終わってしまうものだと思っているからだ。永遠の愛を誓っても、子供がいても、離婚したら赤の他人だ。だから本当はこれを恋というのは嫌だ。もっとなにか違うもんだったらいいと思う。友情の延長線とかそんなんでいい。ただ誰にも同じ単語を使わせたくないと思う。オレだけの特別な何かだったらいいと思う。
だから、もうひとりの遊戯がうらやましいなと思う。
遊戯にとって「もうひとりのボク」は特別な存在で、「もうひとりのボク」にとっても相棒と呼ぶ遊戯のことは特別な存在だったからだ。「もうひとりのボク」が本当はなんなのかオレにはよくわからない。もしかしたら遊戯の心の中だけにしか存在しないのかもしれない。心療内科の医者にかかったら、そう言われそうだ。それがどうした。オレはもう一人の遊戯は居ると思っているし、遊戯自身がそう考えてるなら、それでいいじゃねぇか。
ああ、でも、そんな風に特別なもの同士って、うらやましい。切り離そうとしても切り離せないなんて。それぐらい、くっついてしまいたい。
オレにとって大切なものは、妹の静香と遊戯ぐらいしかないけど。静香のことはこの世の誰よりも大切で守りたいと思うし、やさしい気持ちだけでいい。遊戯は守りたいと思うし、壊したいと思うときもある。よくわからない気持ちがたかまって、胸の中が嵐みたいになる。だからセックスしてるのかもしれない。
遊戯の指の動きは巧みで、オレはすぐに上り詰めてしまいそうになる。出す?と訊ねられたけれど、なんとか堪える。遊戯の手の中で出すのもいいんだけど、もっと違うとこがいい。入れたい。
「ぬいで」
遊戯のズボンを下ろさせて、白い下半身をむき出しにさせる。遊戯のペニスも硬く勃起していたので嬉しくなる。興奮してんだ。オレで。そう思うと幸福に似た熱いなにかが身体のうちがわを満たすみたいになる。オレという鋳型にどろどろの熱い鉄を流し込んだみたいだ。遊戯は再びオレの上にまたがった。オレの肩に顔を埋めて、腰をかるく掲げる。
学ランのポケットから軟膏をとりだす。ふつうの傷薬。よく使ってるやつ。たっぷりと手にとり、指先で擦り合わせたあと、遊戯のそこに塗りつける。遊戯はびくんと震えた。白いまるみを帯びたちいさな尻がひくひくと動く。ぬちっ、ぬちっと濡れた音をたてて、指をすべりこませる。遊戯の中は熱い。くちくちと入り口のあたりを弄ると、たまんない声がもれる。ぎゅっと抱きしめられて、肩口を甘噛みされる。むずがゆいようなその痛みが快感だった。
指をふやし、執拗にそこを弄っていると、もういい加減にしてよと小さく呟かれる。「入れたいくせに」。そりゃそうだ。我慢しなかったら、すぐさま突っ込んでバカみたいに腰振ってる。でもこうやってるのは前戯しなきゃという意味でじゃない。正直なところそういうのは面倒だ。それでも遊戯相手にはヒヒオヤジみたいに、ねちねちとしつこくする。あの遊戯が、自分の腕の中で感じる姿を見るのが楽しいのだ。デュエリストの頂上に立ってて、思い出したくもないが海馬のクソ野郎も認めるような男で、オレが好きで誇りに思ってる相手をこんな風にしてるってことを。ちょっと歪んでるかもしれないし、安心してるのかもしれない。他の誰にもこんなところは見せてないだろうから。
ああ、やべぇ。耳にキスしないでください、遊戯くん。舌を突っ込まないでください。声、でちまいそうになるじゃんか。遊戯がこうやって自分から積極的にしてくるのは好き。オレの前でだけイヤラシイといいと思う。
オレは遊戯を抱きかかえて、貫いた。ずりゅっと熱い内壁にオレが包み込まれていく。ほぐしておいても、そこは狭くてきつくて、気持ちがいい。痛い?って聞いたら、別にって返された。バカじゃないの、城之内くん。その耐えてるみたいな表情がたまんなくて、ぎゅっと抱きしめて、入ったままでしばらく我慢する。
すぐに限界だったけど。
腰を打ち付けながら、全速力で走るケモノみたいに荒い息だけを吐き続ける。遊戯はおもちゃみたいにオレの腕で跳ねている。接合部からは淫猥な水音がひびく。城之内くん。城之内くん。遊戯がオレの名前を呼んでる。誰か来たらどうすんだよと思いつつも、オレも遊戯の名前を呼んでしまう。とろんとした表情の遊戯と目が合う。すげぇやらしい顔してる。あの遊戯がこんな顔してるなんて、オレ以外は多分知らない。遊戯自身も知らないだろう。鏡の前でセックスしたことなんてないから。もう一人の遊戯は知ってんのかな。あいつなら、許すけど。
唇をかさねる。もっぺん。もう一度。揺さぶりながら何度も舌をからめる。舌を吸う。もっと。もっと。頭の中が、身体がとけてなくなっちゃうぐらい。もっと。
終わった後の後片付けに、トイレは便利だよなと思う。オレは手を洗いながらそう思った。遊戯はまだトイレの中だ。後始末すんの手伝おうか?とたずねたら、先に出てってよと、けっ飛ばされた。はずかしいところ見るのけっこう好きなんだけど、あんまりやると逆襲されるからやめておく。誰も入ってこなくてよかったな。ここの公園のトイレは紙が常備してないせいで、利用者が少ないのだ。妙なところばかりに詳しいよな、オレって。
濡れた手をぶらぶらさせながら外に出る。あたりはすっかり暗くなっていた。お月様が煌々と輝いている。
「おまたせ」
「おう」
トイレから出てきた遊戯は、もういつもと同じ顔をしていて、どこにもセックスの影なんてなかった。ちょっとずるいよな。名残ぐらいつけとけ。確かめたくなるじゃんか。
オレはこいつの親友で、キスをして、セックスなんてしちゃってて、すごい好きな相手なんだぜって、世界中に言いたくなる。言わないけど。
「帰ろうか、城之内くん」
オレは差し出された手を握ってうなずいた。別れるときまで、その手は放さなかった。
すでに出来上がっています。
時期的には王国編の前ぐらいかなー。