武藤 遊戯は背が低い。必然的に、教室の席は前の方になる。「いつもそうなんだよ、イヤになっちゃうぜ」と遊戯はむくれていたのを思い出す。城之内と本田と同じ枠につっこまれ三馬鹿扱いをされていても、遊戯はわりとまじめに授業を受けている。
城之内本人は、自分の成績の理由を、早朝の健全な新聞配達による睡眠不足でついつい寝てしまうのが原因だと公言していたが、本当のところは進級さえできればいいやと思っている根性にある。本田も同じような理由だろう。
遊戯のやつは、ノートをとり、先生が要点だぞというところには、マークをつけ、ふむふむと肯いてるわりに、成績がわるい。なぜなんだろう。右斜め後ろに位置する城之内には、それが不思議だった。遊戯は頭の回転がわるいわけじゃないのにな。
きっと、脱線が多いからなんだろう。
遊戯は、授業中にぼんやりとあらぬところを見ていたかと思うと、ノートに向かって猛然となにかを書き付け始めたりする。きっとゲームのことでも考えているに違いない。デッキの構築とか、レアカードの対策法とか。そういうときの遊戯は、とても楽しそうだ。デュエルキングの異名を持つ遊戯には、あのカードバトルがどう見えているのだろうか。
少なくとも、オレとは違うんだろうな。
教室は蒸し暑かった。カーテンを閉めてあるとはいえ、窓際の席は直射日光でローストされまくりだ。電車みたいに紫外線カットをしてくれるガラスだったらいいのに、もう。そんなことをさっきの休み時間に杏子が言ってたのを思い出す。電車の窓ガラスがUVカットだなんて知らなかった。杏子は妙なところで物知りだ。
城之内は、右斜め前の遊戯をぼんやりとながめた。遊戯はだるそうに手で顔を扇いでいる。筋肉のない、すとんとした細い手首に黒革のリストバンド。ぴったりした黒皮のタンクトップが、白い薄手の半袖シャツの下に透けて見える。あんなの着てるからだよな。暑いの。いくつものベルトでデコラティブに装飾された服は、鍵の掛かったアルバムや宝箱を連想させる。手間かかるんだよな、あれ脱がせるの。
昨日、遊戯の家でしたことを城之内は思いだした。
でも興奮するんだ。手間がかかるのって。
そういうことを初めて知った。
皮の滑らかな手触り、ひんやりした金具の感触。手首を重ねて、ひとつに持ち、遊戯があたらしく買ったというごついシルバーのチェーンでしばりあげた。腰の革のベルトを引き抜いて、それで目隠しをする。
すごいノリだなぁ。
恐い?
こわくなんかないぜ、城之内くん。
その声は、まるで断頭台に立つ聖女のようにしっかりとして優しく清らかだった。こじ開けた黒い服の奥の乳首ははっきりと固くなり、股間の欲望は閉ざされたファスナーを痛いほど持ちあげていたのに。
死ぬほど、やりまくりたい。
ねつい息とともに耳元でささやくと、さざなみのように身体がふるえた。
その証拠はあの服と、金色の千年パズルをかけた首の下にある。
子供みたいなミルク色した肌につけまくった赤い跡。
昨日の行為を授業中に思い出して興奮してる。
ああ、オレって馬鹿じゃねぇの。
城之内は息を吐き出す。
昼休みに、やりたいと言ったら怒られるかな。
あなたのことしか考えていません。
遊戯は、首に巻かれた黒革のベルトの下に指を入れて、ゆるめるようにくぐらせた。