明日は、新聞休刊日なので、遊戯の部屋にお泊まりなんてのをしてみた。
 夕飯は、ママさんの手作りカレーだった。
 でっかい鶏肉のかたまりがゴロンゴロンしてた。
 肉いっぱいのカレーはいいよな。
 オレん家で作ると、ジャガイモだけのカレーだったり、ニンジンだけのカレーだったりする。カボチャやナスを突っ込んだり、その時期なりの安い野菜でつくる。
 カレーのルーとご飯さえあれば、わりと食えるもんだ。
 たまにオヤジがパチスロかパチンコでとってきたコンビーフ入れて贅沢をするときがある。これはイケル味だ。
 ジャガイモやタマネギを剥くのを手伝ったり、つまみ食いをしたり、煮こむのを待ったりしながら、オレはママさんとだべっていた。遊戯は店番してたのだ。
 遊戯ったらぜんぜん夕飯の手伝いしてくれないのよ。ゲームゲームで。それに比べて城之内くんは働き者でえらいわね。
 そうでもないッスよ。
 オレは遊戯のママさんと話するのが好きだ。いかにもお母さんって感じがして、自分にはもう縁のないモノだから、ちょっと甘酸っぱい気持ちになる。


 
 飯を食ったあと、先に風呂を使わせてもらった。
 今日は早めに寝る予定だ。
 ホントはすることしたかったんだけど、下にママさんとじーさんもいるし、明日はそこそこ早起きして遊びにでかけようね!って、遊戯に約束をさせられたし。
 まあ今日一日ぐらいは我慢を――。
 ――したくないけど。
 好きな相手と(同じ部屋で)一緒に寝るなんてシチュエーションでムラムラしちゃうのは、健全健康な高校生男子としては当然だと思うわけよ。
 したいよなぁ。
 キスとか。
 触ったりとか。
 舐めたりとか。
 入れたりとか。
 やっぱダメかな。怒るかな。頼み込めばさせてくんないかな。
 Tシャツにジャージ一枚で、ベッドの上でごろごろ回ってみる。
 遊戯だって、すんのが嫌いってわけじゃないよなぁ。バレたらマズイつーのはわかるんだけどさ。
 マズイよなぁ。うん。
 ママさん、オレらがホモってるの知ったら卒倒するよな。
 オタクの息子さんにあんなことやこんなことしてますなんて、申し訳ないよなぁ。
 でもオレだってこんな予定じゃなかったんですよ。オタクのお子さんがあんまりにも可愛くて色っぽいからいけないんですよ。
 なんですか、あのたまに見せる色気は。
 流し目喰らわせるわけですよ。鳩尾にストレートくらうより効きますよ。そこらへんのメイクバリバリの女子高生なんて目じゃないですよ。ふせた瞳が艶っぽいんですよ。普段のガキっぽさとの落差にくらくらですよ。
 なんですか、あの子供みたいにすべすべのきめの細かい撫でたり揉んだり舐め回したりすると気持ちのいい肌は。オモチャみたいに小さくてピンク色の爪は。桜貝みたいな唇は。
 なんだよ、桜貝ってよ。オレのボギャブラリーじゃねぇつーの。
 でもさ、男ってのは単純なもんなんです。清楚ってヤツに弱いんです。厚化粧より薄化粧。キツイ女より儚げな女。うるさい女より、芯の強い女に弱いんです。
 いや遊戯は女じゃねぇけどさ。
 これまでヤったどの女より、エロ本のグラビアにでてる巨乳のカワイコちゃんより、テレビでにっこり笑ってるアイドルより、一番いい。
 ガキみたいに笑うし、アホやって遊ぶし、けっこうスケベだし、ゲームのことばっか考えてるし。
 でもオレのこと好きだし。オレも大好きだし。
 一番、どきどきする。
 一番、えろい。
 どうしていいかわかんねぇぐらい。
 ホントにマジで好きなのよ。



「あー、あっつい」
 風呂から出たあと、遊戯は下着だけを身につけて、バスタオルを首にかけたまま部屋に戻ってきた。
 あのですね、遊戯くん。
 ひとにサカるな言ってるくせに、そういう格好でもどってくんなよ。
 襲ってくれと言ってるように見えるじゃないですか。
 鴨葱ですよ。
 鍋はいってグツグツ煮られてますよ。だしきいてますよ。
 オレにじろじろ見られていることにも気がつかず、遊戯はぱたぱたと手で扇ぎながら、タンスの引き出しをあけ、手のひらよりちょっと大きいぐらいの白い丸いケースをとりだした。

「なに、それ?」
「ベビーパウダー」

 当然のように答えて、遊戯はケースのふたをあけた。ふわっと、どこか懐かしいような匂いがただよってくる。
 かいだことのある匂い。
 あ、遊戯の匂いか。
 近づいたり、抱きしめたり、だっこしたり、ぐるぐるぶんまわしたり、手をつないだり、セックスしたりすると、いい匂いすんなとおもってたけど、これか。
 香水をつけるタイプじゃないし、せっけんの香りかなと思ってたんだけど、ベビーパウダーか。
 そういや静香が小さいころ、風呂上がりにつけてあげたことがある。
 懐かしいな。
 遊戯は腕や首筋に、ぱたぱたはたいている。

「あ、ちょっとストップ」
 遊戯がふりかえった。
「城之内くんも使う?」
 いや、そうじゃなくてさ。
「オレにもやらせて」

 ベッドから起きあがって、ベビーパウダーを遊戯の手から奪いとる。
 別に自分でできるのにって、いいじゃんオレがやってもさ。
 遊戯はそれほど抵抗もせずに、素直に背中を向けた。
 細い首すじの後ろから、パタパタとはたいていく。

 まるい肩。
 腕をあげさせて、脇の下。
 ここは、ものすごい、くすぐったがった。
 自分でやるとなんともないのに、他人にされるとくすぐったいところってあるよな。
 二の腕の、うちがわの柔らかいところ。
 肩胛骨。
 うっすらと浮き出た背骨。
 ほそい腰。
 風呂上がりの上気した肌に、白いパウダーがうっすらのっていく。

 オレは、ごくりと唾を飲み込んだ。
 やばくないか、これって。
 
 パンツのところまで来たところで、「ありがと」と遊戯が振り返る。
 その笑い顔が硬直した。
 そのまま、じっとオレを見つめている。
 正確には、オレの股間を。
 中学のときのジャージの下の、それを。

「…………………………」
「…………………………」

 気まずい時間が流れる。

「ねえ」と遊戯。
「はい」とオレ。
「どうして、そんな風になってんの」
「いいじゃん別に」

 遊戯は顔を真っ赤にした。
 両手こぶしをにぎって叫ぶ。
 
「よくないよ!」
「オレがいつ勃起しようが、オレの勝手だろぉ!」
「なんでベビーパウダーつけてるだけで勃っちゃうんだよ! ヘンタイ!」
「ヘンタイ言うな!」

 お前がかわいいからいけないんだよ。
 しょうがねぇだろ。
 つかモエる。萌える。燃えまくる。
 その薄い桃色の肌に、ぱたぱたとパウダーをはたく喜び!
 なんだよ、このかわいいイキモノ!
 ベビーパウダーで興奮することができるなんて、今このときこの瞬間まで、オレだってまったく知らなかったっての!
 これは絶対、オレが悪いんじゃねぇ。
 オレのせいじゃねぇ。
 お前がいけない。
 お前がかわいいからいけない。

「だから、もっとやらせろよ」
「なんだよ、それ」
「ちこうよれ、ちこうよれ」

 オレはベビーパウダーをちょっと床に置くと、遊戯のパンツに指先をひっかけて、ずいっと下ろした。
 うわ!とか、ひゃー!とか騒いでる遊戯をかかえあげて、ベッドに投げる。
 うつぶせになった遊戯の足から、パンツをひっこぬいた。

「ちょ、城之内くんってば、何するつもりだよ!」
「ベビーパウダーはたくだけだよん」

 ばたばたもがく身体を押さえ込みながら、机のところに置いてあった黒革のベルトをひっつかむ。まず両手をしばりあげて、もう一本で両足。これで準備完了だぜ。

「拘束ってエロいよなぁ」
「馬鹿なこと言ってないでよ」

 すっぱだかに黒ベルトですよ。
 オレは床に置いておいたベビーパウダーを取り直し、ゆっくりと遊戯の足の裏から、白い粉をはたきはじめた。