ちょっと書きたくなったパラレル城表。
雰囲気だけの話でごめんなさい。
城之内くんが人外。
性的描写があるので苦手な方はお気をつけください。
新宿の地下道を歩いていると、いつも雑誌やらなにやらの広告が大量に張ってある。たいていは愛されるためファッションとか恋をしたいあなたに!とか、モテる男になるためにとか、そういうことが書いてある。人間って好きだよな恋愛。
恋愛なんてもうずいぶんしてないから忘れてしまった。したのって、初恋ぐらいじゃないかな。もう相手の名前も顔も忘れちゃったけど。
百年ぐらいたてば、忘れちゃうよな。
恋がどんな気持ちだったのかなんて、覚えてない。
*
実をいうとオレは、人間じゃない。じゃあ、なんだと言われると答えに詰まるのだが、たぶん、まあ人間じゃないんだろうと思う。だって、ずいぶん長いこと生きてるってのに、見かけは十七、八にしかみえないし。いや、生まれたときからこうってわけじゃないんだよ。子供のころってのも覚えてる。おぼろげにだけど。ミルクホールと女給さん。東京の町中がしんとした大喪の礼。発売されたばっかりの、森永ミルクキャラメル。髪の色と目の色がうすい茶色で虐められたこと。馬に乗って通りすぎる外人さん。
そういうことは、おぼえてる。
あとはたくさんの死。
オレは人を喰う。いつから喰ってたのかは、もうおぼえてない。生まれたときから異形だったんじゃなかったはずだ。ただ、あの頃はたくさんの人間がよく死んだ。そして、そのあとも。そんな時代に、オレは大人になって、喰うことをおぼえた。
それだけなんだと思う。
闇のなかで生きることはそんなにむずかしいことじゃない。どんな時代になっても、オレの居場所はあったし、どんな世の中になっても消えてもおかしくない人間というのはいた。
そんな闇の中で、オレはそっと暮らしていた。
今の時代は、かなり生きるのが、楽だ。
二十四時間営業中のコンビニエンスストア。マンションの隣の人間の顔は知らないのがふつう。新宿みたいな大きな町は、オレみたいなのも、ちょっと変わってるぐらいですむ。なんだって平気で飲み込んでしまう。だってオレが喰わなくても人は毎日たくさん死ぬ。交通事故で。痴情のもつれで。怨恨で。金銭面のトラブルで。ナイフで。自動車で。首を絞められて。さまざまな形でひとは死ぬ。
そんな世界で、オレはひっそりと生きている。履歴書も保証人も何もいらない仕事をして、小金をかせいで、消費税だけは納めながら、給料日にはちょっとだけ豪勢に酒を飲み、粗大ゴミからひろってきたゲーム機で遊んだりしながら、ひっそりと人を喰って暮らしている。
*
オレはにぎやかな繁華街あたりに、喰いに行く。六本木あたりも何があってもおかしくはないんだけれど、外人にからまれたりして面倒なのだ。男はともかく、軍人なんてごめんだ。捜査なんてされたらたまったもんじゃない。今はそうでもないかもしれないけど、昔の記憶がさ。あーうん、メリケンさんにパンパンの時代の話よ。新大久保のあたりの外国人街も行かない。あの辺りはいまはもう日本じゃなくなってる。日本語よりハングルの看板のほうが目立つのだ。わかんないところは怖い。偏見のかたまりでわるいか。オレはどうにも旧式なのだ。年寄りなんだよ。いまだに携帯電話も持ってないし。
だからオレは歌舞伎町あたりの、一見の人間でも入りやすそうな、そこそこ小ぎれいな店をえらぶ。うるさい学生が来ない店。会員制ではない店。あんまり常連ばっかりで居づらくなるわけでもない店。童顔なんだよねって言えば、オレの見かけでも入れてくれる店。
そういうところには、絶対にひとりで飲んでる男か女が居るはずだ。
行き場がない人間。親か、子供か、それとも孤独が待つ家に、そのまま帰る気力もなくて、かといって常連の飲み屋も、連れだって飲む相手もいない人間。酒に孤独と絶望を紛らわせているような人間。そういうやつをオレはえらぶ。すぐにわかる。
だって、彼らはとても不幸そうなのだ。
どこに行けばいいのか、わからないような顔をしている。ここまでずっと歩いてきたのに、いつのまにか迷い道に迷い込んだような、どこへ行けばいいのかわからないような、そんな顔をしている。
オレは彼らのとなりにそっとすわる。相手が、こちらを見る。オレは笑いかける。人好きのする笑みだって、よく言われる表情で。相手はとまどった顔をする。オレは声をかける。話題はなんでもいい。とてもくだらないこと。あたりさわりなく、何飲んでるの?とか、そんな感じのこと。
彼らは話に飢えている。聞いてくれる相手に飢えている。とても疲れているのだ。真面目だと生きるのつらいもんな。それはいつだってそうだ。どんな時代でもそうだ。だからオレは彼らと話す。彼らの話を聞く。すぐに彼らは言葉を吐き出し始める。そうしないと死んでしまうかのように、決壊するダムのように、ぽろぽろと話をこぼしはじめる。それから、オレはもっとふたりで話できるところに行こうよという。セックスは連想させないような顔で。そういう顔はオレは得意だ。ただ手をつなぐ。肩を抱く。飢えていた温かさをあげる。そうやって一晩を過ごしたあと、食べるんだ。頭のてっぺんから。がじがじと。
*
今日えらんだ相手は、まだ若い男だった。男というよりはまるで少年みたいで、こんなところに来て大丈夫なのかよってつい聞いてしまった。普段だったら、こんなガキっぽい相手に話しかけたりなんかしないんだけど、あんまりにも場違いだったのだ。
そいつは、もうとっくに成人しているんだけどと困ったように笑って、免許証をみせてくれた。見かけも声も若くて子供のようなのに、たしかに酒を飲むには問題ない年齢だった。名前は見なかった。覚えておく必要もない。
わるかったなと言うと、はにかんだように笑い、よく言われるからと答えた。
代わりにオレは酒を奢った。
ほそいフレームのメガネをかけていて、目はあめ玉のように大きかった。唇はちいさくて子供のようなピンク色だった。最近の流行はよくわからないのだが、黒い首輪のようなものを着けていた。チョーカーとか言うんだっけ。言葉はくるくると変わりすぎてうまく覚えられない。手首にもおなじようなごつい革のベルトをつけている。幼げな容姿と似合わないけど、こういうのが流行なのかもしれない。髪型も派手だし。オレにはいまどきの流行なんてよくわからないので寸評は控えた。
そいつは、どこかほうっておけない幼い感じがして、女だったらずいぶんとモテそうだなと思った。子供っぽいのも女だったら問題ないだろうし。いや、男でもモテるんだっけ。この先の二丁目あたりにいくと、そういうのばかりが集まっている。
オレは男でも女でもどちらでも性交はできるのだが、できれば女性の方がいい。やわらかでぬめるように白い女の肌にがぶりと歯をたてて、さくさくと食べるのはとてもいいものだ。でもまあ、たまには男もいいかと思った。男でも、こいつなら堅くなさそうだし、汁気がのってうまそうだ。若いしな。
彼は「学生なんだ」と言った。大学生ぐらいなのだろうか。オレは「そうなんだ」と答えた。オレのほうはどうなの?と見るので、ただ笑ってかえした。「尋常小学校に行きました」なんて答えられない。大学の名前もよくしらないのだ。明治の昔からあるのは、まあなんとかわかるという程度。
オレの笑顔にそいつも笑いかえし、「ここには、よく飲みに来るの?」と質問を変えてきた。
「いや。今日がはじめて」とオレは言った。
「ボクもはじめてだよ」と彼が言った。
「わるくない店だよな」
「君と会えたしね」
そんな風に言われると、ナンパされているような気がする。そう思ってたら、本当にそうだったみたいだ。
「名前なんていうの?」
「城之内」
「城之内くんって呼んでもいい?」
「いいよ、そっちは?」
「遊戯」
ユウギ。
かわった名前だ。かわった奴にぴったりだった。
*
オレは遊戯といっしょに店を出た。それからカラオケボックスに行って、仲よく歌った。
オレは流行の歌が好きだ。昔っから好きだ。歌をうたうのはひとりっきりでも出来ることだ。楽しい歌をうたえば、陽気な気分になるし、メランコリックな歌をうたえば、しんみりした気分になる。そんなわけで、オレはカラオケも好きだった。
知らない人間同士で、会話なんてそうそうかんたんにはずまない。その点カラオケは、とりあえず目の前に表示された台詞をいえばいい。歌うのがどうしても、嫌いだというやつもいるが、それは歌うのが嫌いではなく、下手な歌を聴かれるのがきらいなのだ。いやホントにただ嫌いなひともいるかもしれないけど。だからカラオケに行くと、オレは最初にマイクをにぎる。しょっぱなからがなり立てて、へたくそな歌をうたう。
それなりに唄えるのだが、あまりうまく唄うのは上策ではない。歌を楽しむために行くわけではないからだ。オレは下手だけどいいよな、と笑って、大声でうたう。音をはずしながら歌う。そうすると、たいていの人間はおかしそうにわらう。いたずらをした子供をみるみたいな目でわらう。そこでオレはマイクをわたし、相手の歌を聴く。
今日もそうした。
遊戯は歌がうまかった。プロのように上手なわけではないが、甘いやわらかい声は賛美歌を歌う少年のようだった。聞いていてきもちがよかった。オレがそういってほめると、遊戯は照れたように頬を染めた。彼の肌は出来たてのパンのようにしろくて、きめが細かく、きれいだった。アルコールのせいで頬はほんのり赤くまるで熟れた桃のように色づいている。
とてもうまそうだ。
オレはうれしくなって笑った。
なんとかしてこいつを食ってしまいたい。
性欲にも似た欲望がオレの身のうちにわき起こる。ぞくぞくとする。興奮しているのだ。美味いモノを食うと幸せな気分になるだろう? 腹が満たされると幸福感でいっぱいになるだろう? それはオレも同じだ。うまいものを食って幸せになりたい。このやわらかそうな肉に歯をたててむさぼり食いたい。それはシンプルで力強い欲望だ。
それにしても遊戯は、若くて、まっさらで、つきたての餅みたいにうまそうだ。どうやって食おう。どこで食おう。
「これから、どうする?」
1時間ほど歌ったあとで、オレは遊戯に聞いてみた。
遊戯は恥ずかしそうに顔を赤らめて、できればふたりっきりになれるところに行きたいなと言った。もちろん嫌なわけがない。願ったり叶ったりだった。
*
反吐と小便の匂いが漂っている路地を通り抜けて、クスリあるよという売人の声を無視しながらオレたちが行ったのは、たちんぼの女が来るような安くて汚い場末のホテルだった。入り口で金を払うだけで、相手も人数の確認もしないので気に入っている。部屋も狭くて、薄暗い。シーツだけは変えられているのが幸いだった。たまにろくな掃除もしていない部屋に当たるときがある。遊戯はものめずらしそうに辺りを見回していた。
「こういうとこ初めて?」
「うん」遊戯はうなずいた。「ちょっと、びっくりした」
「でも興奮するだろ?」
「そうかもしんないね」
そう言ってベッドに座る。ぎしっときしむ嫌な音がした。オレはそのまま遊戯を押したおして、首筋に唇を這わせた。
「気が早いよ」
「いいじゃん」
酒の香りにまじって、かすかに汗のにおいがした。健康的で、やわらかくて、悪くないにおいだった。唇を重ねて、舌をからめた。ぴちゃぴちゃと水音をたてて、濡れた小さな舌を吸った。腰の奥がずんとするぐらいあまい。本当に上物の味がする。病気や生命力のよわそうなのはマズイのだ。わかるだろ? 上等の肉だったら生でもうまそうに見えるはずだ。
吸い付くような滑らかな肌の感覚に酔いながら、オレは遊戯の服を脱がせた。オレが犯すほうでいいんだよなという疑問が一瞬胸をよぎったが、抵抗もなさそうなので、そのまま進めることにした。抱かれることもあるが、抱く方が好きだ。男だからな。
ちいさな乳首をくわえて歯をたてる。遊戯は、んっ……!とくぐもった声をあげた。感度はいいみたいだ。喰う前に気持ちよくしてやるのもいいだろう。絶頂のときに喰ってやれば昇天してくれるんじゃないか。勝手かもしれないが、そう思う。オレだって恨まれるのはイヤなのだ。努力はしているのだ。
遊戯の脇腹を撫で上げ、すべすべした腹を舐め上げて、その下にある部分にたどりつく。ぱくりと口で銜えてやると、たまらない声をあげてよがった。身をよじり、首を左右にふる。少年のような清潔感のある声なのに、淫猥な色を乗せて喘ぐ様は、オレの食欲だけでなく性欲も煽った。裏側を丹念になめ、ふくろごと咥えた。身体に見合ったサイズとはいえ、根元までくわえ込むとさすがにのどの奥のほうにまで来たが、そのまま口をすぼめて愛撫してやった。
「ひもちいい?」
「あ、んっ……んんっ……!」
言葉にならないけど反応でわかった。オレは満足した。舐めたり咥えたりするのは得意なのだ。長めの舌をサオに絡ませて、ぎゅっと吸い上げる。遊戯は背中をそらせ、膝をまげてビクビクとイッた。ちいさな足のゆびがぎゅっと丸まっていた。よくできた人形のように小さくて形のととのった爪がついていた。
オレはその足先を口にくわえた。ゆっくりとねぶってやり、指の股の間を舌先でくすぐると、快感とくすぐったさに身をよじる。そのさまが可愛らしくて、逆に興奮した。
子供っぽいとはいえ、男相手に立つのかなと思っていたが、問題はなさそうだ。
ベッドの脇に置いてあったローションのちいさな袋を歯で噛んでちぎり、とろみのある液体を掬うとちいさな窄みになすりつけた。指先がすべりこむと遊戯は甘いうめき声をあげた。ぐちぐちと淫猥な音が狭い部屋に響いている。
「上手だろ、オレって?」
「わ、わかんないよぅ……!」
うすい壁を通して回り中から似たり寄ったりの嬌声が聞こえる。遊戯も声を殺しながら、快楽の吐息を漏らした。指を増やし、中をえぐってやる。男の感じやすいコリコリとしたところに指先をあてると、その刺激がたまらないとでも言わんばかりに喘ぎながら、自分からがくがくと腰をゆらした。
「ここでくわえんの、好きなの?」
そうたずねると遊戯は処女のように恥ずかしそうな顔をして、ぶんぶんと首を横にふった。大きな目からは涙があふれそうだった。男の欲情を煽るような表情だ。
「好きなんだろ?」
「ちが……」
「ぶち込まれたいんだろ?」
「あっ……ちがうよぉ……」
「指のまんまでいい? オレのアレがいい? それともオモチャでもぶち込む?」
「や、やだぁ……!」
「なんだよ、わかんねぇよ。このまま止めてもいいわけ?」
「いじわるなこと……い……言わないでよ……」
遊戯は涙目になりながら、そう言った。経験、あんのかな。こんなところに素直に着いてくるんだからあるんだろうか。でも奇麗だしな、ここ。あんまり慣れてないっぽいような気もするし。いいところ弄られると誰でも気持ちいいらしいし。
まあ、いいや。
オレは自分のをしごきながら、先端をそこに当てた。たっぷりと指とローションで下ごしらえをしたそこは、ぱくぱくとひくついていて、今にもオレのアレを飲み込みそうだ。
「生で、ぶちこむぜ?」
遊戯が目をあけて、一瞬とまどうようにオレを見た。
「だいじょぶ。オレ、ビョーキもってないから」
オレは人の病気にはかからない。性病にも無縁なのは助かる。金のない暮らしをしているからな。ただ怪我はする。ナイフでえぐられれば傷つくし、しばらく寝込む。それ以上のことはされたことがないからわからない。なんでオレがこんな生き方をしているのかもよくわからないのだ。
でもそんなものだろう。人生なんていうのはそういうものだろう。どうしてこんな風になっちまったのかなんて、よく聞く愚痴だ。もっと明るい未来があったはずだ。もっといい女と付き合えたはずだ。もっといい会社に入れたはずだ。もっと幸せになれたはずだ。そういう言葉は死ぬほど聞いた。でもそうはならない。人生なんてものは、そうはならない。自分が望むような幸せだけに満ちた華々しい人生なんてやつは送れないのだ。
そうできる奴もいるのかもしれない。でもそういう幸せな人間はオレには縁がない。オレにできるのは愚痴を聞いてやり、なぐさめてやり、セックスをしてやり、喰らいつくしてやる。それぐらいなのだ。
今日の相手はいつもと毛色がちがって、ほんの少しだけ寂しそうな、人恋しそうな風情を見せていただけだったが、でもたまにはそういうのもいいだろうと思った。時々は不幸の影にべっとりと塗られていない、きれいで美味しそうなやつを喰うのもいいよな。オレは舌なめずりをしながら、腰をゆっくりと進めた。
「ああっ!」
遊戯が高い声をあげた。オレの先端が遊戯の体内にもぐりこんだ。さきっちょのふくらんだ部分が入るまで押し込むと、いっぺん戻す。ずっずっと何度か浅い突きを繰り返しながら、その深度を深めていく。
「お前ん中、狭くて熱くて気持ちいいぜ?」
「やっ、やだぁ……っ!」
子供のように啜り泣きながら、それでもしっかりとオレのものをくわえ込んで離さない。ほんとに気持ちいい。小さくて温かな身体をしっかりと抱きかかえながら、オレは根元まで自分を押し込んでやった。ぐち、ぐちっと濡れた音がひびいて、ベッドが軋んでいた。快楽だけがすべてのように腰を振った。すごく良かった。
「城之内くん……城之内くん……」
なんでオレの名前を呼ぶのだろう。
そういうのは久しぶりだった。ものすごく久しぶりで驚いてしまいそうになるぐらいだった。
せつなげな声で名前を呼ばれると、昔、まだ昔、とても昔、好きな女と手をつないだり、接吻をしたり、せつない気持ちで好きだとささやいたときの気持ちを思いだした。
あれは喰うよりも、ずっと良かったような気がする。大事だったような気がする。大切にしていたような気がする。
でも今のオレはちがうのだ。
好きだとか、そういうのって、もう終わってしまったことなのだ。
食べなくちゃ。そう思うと、ぎゅっと臓腑をえぐられるような気持ちになった。淋しいとでもいうのだろうか。出会ったばっかりの人間が居なくなったところで、すぐに忘れてしまうだろうに。
イッて、こいつもイッたら喰おう。
そう思ってからだを動かす。快感の中で、物悲しいような気持ちが胸をじわじわと占めてきて、オレはどうしてか泣きそうになった。哀しいのかもしれない。早く終わらせてしまおう。そうすれば何もかも元通りになる。
腰を激しくうごかすと、ちいさな身体がオモチャのように跳ねてうめいた。
「なぁ、気持ちいいか? いくのか?」
「……うん、……うん。気持ちいいよぉ……」
消え入りそうな声であえぎ泣く。
オレもいいとうめきながら、身体を打ち付けた。
びくびくと遊戯の身体の中に放つ。繋がったまま、最後にキスをしようとした瞬間、遊戯の大きな目がオレをじっと見すえていた。
「ごめんね」
どうしてそんなことを言うのだろう。
やわらかく甘い唇を感じた直後、オレの意識は真っ白になって吹っ飛んだ。
*
決闘王だかデュエルマスターだかなんだか知らないけど、遊戯はそういうモノらしい。
別にふつうの気の弱い人間だよって言うけど、それがオレを捕まえるかな。
どうもオレはデュエルモンスターだかなんか知らないが(横文字を使えばいいってもんじゃない)、そういう存在だったらしい。レッドアイズなんとか……とか言われたけど、横文字苦手なんだよな。まあいいや。オレはオレだし。人間がそういうわけのわかんないものに変わっちゃうことはごく稀にあるそうだ。ほんとだったらそのモンスターだかなんだかになると、ちゃんとそっちの世界に行って暮らすそうなんだけど、オレはずっとこちら側の世界を彷徨い歩いていたわけだ。
遊戯は、誰かからオレの噂を聞いたらしい。そんでもっていろいろ迷惑をかけてたのを聞いて、放っておけなかったのか、誰かに頼まれたのか、そのあたりは教えてくれないのでわからないが、とにかくオレを捕まえようとしたそうだ。
でも、ほら。オレってほとんど人間じゃん? そんでもって、いっぺんも人間に使われたことがないわけよ。そっちの世情なんて知らないからさ。
そんで一番シンプルな契約、血かそれに準ずるものを使って、オレを縛ろうとしたそうだ。オレが誘ったんでセックスになったけど、いきなり血をくださいといわれても応じなかっただろうから、あれでよかったんじゃないかと思う。
そんなワケで遊戯はオレのマスターになったんだが、未だにオレは何をすればいいのかわからない。でも人様に迷惑をかけないようにはなったんだからいいじゃないのかって、遊戯は言うし。オレもそれでいいかなと思う。マスターが居れば、オレは人を喰わないで済むらしいよ。すくなくとも遊戯とは一緒に居られるし。
同居させてもらってるんだ。やってることといえば、部屋の掃除とか食事つくったりとか、一緒にゲームしたりとか、まるでヒモのような生活で、オレは本当にそのモンスターなのか自分でも疑問に思うんだが。
でも、遊戯といられるのはうれしいから、いいんじゃないかと思う。
それにしてもよくわからないのは、遊戯と一緒に居るとたまに胸がぎゅーっとしめつけられるようになることだ。泣きたくなったり、わめきたくなったり、いきなりきつく遊戯をだきしめたくなったり、接吻したくなったり、遊戯がいないと情緒不安定気味になる。
なんでそんな気持ちになるのか、未だに理由はわからない。