◆3
「今日の夕飯なに?」
「カレー」
やった!とクマはうれしそうな声をあげた。肉いっぱい入れる?とたずねてくるのに遊戯が肯いてやると、ひゃっほうと小躍りまでした。年上(たぶん)には見えない。
スーパーからの帰り道、クマと一緒に歩いていると当たり前のことだがたいへん目立つ。しかし遊戯は気にしないことにした。派手で目立つ人間(?)と一緒にいるときは、恥ずかしいだのなんだのそういうのは諦めて、堂々としているほうがいいのだ。これまでの経験則で、それはよく知っている。
遊戯は片手に風船を、反対に荷物をもった。クマは遊戯の荷物を半分もってくれた。
「でもさ、なんであそこでバイトなんてしてんの?」
「スーパーだけじゃねぇよ」とクマは言った。「駅前でチラシくばったりしてんだぜ。ティッシュとか」
家でごろごろしているだけだと思っていたのに。
「いつの間に」
「お前、塾で遅いじゃん。その間に」
「塾?」
遊戯は首をかしげた。どうして塾という言葉がでてくるのだろうか。塾なんて小学校のときと、大学受験のときに通ったぐらいだ。
「お前一人暮らしだろ。ちっとは気を遣ってるんだぜ。仕送りとか、あんまりねーんじゃないの?」
仕送り?
「仕送りはもらってないけど」
遊戯のその答えに、クマはえ?と驚いたような声をあげた。
「んじゃ、金どーしてんだよ。金なかったら、アパートの家賃も払えないだろ?」
妙なことを言うなと、遊戯は思った。
「お給料があるもの」
「給料?」
「そう」遊戯はうなずいた。「ちゃんと毎月給料貰ってるし。就職して三年目だし。城之内くんがいても、それほどカツカツってわけじゃないよ」
クマは、ぽかんと口をあけた。ちょっとマヌケ面でかわいかった。
「かいしゃいんなの?」
「そうだよ」
「学生じゃないの?」
「ボクのどこが学生なんだよ」
毎日スーツを着て、革靴を履いて出社してるのに。KCの開発部あたりは、そこらへんの学生と変わらないようなラフな私服で出社するものも多いが、遊戯の勤務しているのは品質管理事業部である。職場ではスーツ姿での出勤が義務づけられていた。
「あれ、制服じゃないの?」
「スーツだよ!」
「中学生かと思ってた」
クマはぽつりと言った。
「ちゅうがくせい!」
遊戯は叫んだ。
中学生。いくらなんでも中学生て。
いや、そもそもあんなことしておいて、ボクのことを中学生だとォ!
「ざっけんな!」
このアホぐま。バカくま。
こんなヤツが居なくなって淋しいわけなんてあるか!
「怒んなよ、遊戯」
だっこしてやろうかとか、おんぶしてやろうかとか。さっき風船を渡していた子供相手とたいして変わらないような態度をとるな。こっちはもうとっくの昔に二十歳を超えてんだ。
ずかずかと早足で歩くと、クマが待てよ、バイト代でなんかいいもん買ってやるから機嫌直せよなんて言ってくる。
「新製品のゴムでも買おうか? それとも食べられるローションでも買う?」
「そのバイト代ためて、うちから出てけ!」
ぎゃあぎゃあ言い合いながら、クマと一緒に家に帰った。
一緒にカレーを作って、一緒に夕飯をたべた。
三月の休日は、そんな風に暮れていった。
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