◆1
もう木枯らしが吹く季節だった。
がらりと窓を開けると、冬の乾燥した冷たい空気が入ってくる。
「過ごしやすくなったよなぁ」
高くなった青い空を見ながら、クマはご機嫌でそう言った。
そりゃ夏に着ぐるみは大変だったでしょうよと、ピンクのふわふわしたセーターを着込んだ遊戯は、コタツにもぐりこみつつ、ココアのはいったマグカップをふーふーと吹いていた。
今年の夏は暑かった。秋もその余波で熱がじりじりと残っていた。
暑い暑いとさわぐから、クーラーを付けてやったら、金がもったいないと妙なところでクマは怒った。地球温暖化には協力したくないらしい。
それでも頑として遊戯のいる前では、着ぐるみを止めなかった。さすがに真夏には諦めて脱いでいたが、頭だけは部屋の中でも常にかぶっていた。下はランニングに水玉のパンツひとつだった。珍妙としかいいようのない格好だった。
「わかったよ」
脱水症状になりかけて、ハァハァと浅く息を吐いて、氷のかけらをしゃぶりながら、台所の床でねっころがっているクマ(頭だけ)を見下ろしながら、遊戯は腰を手に当てて言った。
「ボクが城之内くんの顔を見なければいいんだろ?」
遊戯がタオルで目隠しをしてやったら、ようやくクマはかぶりものを脱いだ。
それに味を占めたのか、いつの間にかクマは、遊戯がよく身につけているチョーカーによく似た感じの黒革の目隠しを用意してきた。涼しさには勝てなかったらしい。
夏の間、家に帰ると毎日のようにその目隠しをさせられていた。
宅配便の配達のひとがきて、この状況を見たら、変態プレイやってると思われるんだろうなーと思いつつも、遊戯はそれに付き合った。
そんなことをしながらも、もう12月である。
そろそろこのクマが来てから、1年が経ってしまうのだ。
まさか、こんなに長く居着くなんて思わなかったなぁ。
遊戯は頬杖をつきながら、洗濯物を取り込んでいるクマをながめた。
後ろ姿でふりふりお尻をふっているところは、かわいい。
コタツの上に出しておいた携帯電話がちいさく鳴った。遊戯はココアを飲みながら、メールを見た。
「ボク、夕方ちょっと出かけてくるね」
「メシは?」
「たべてくる」
クマはふーんと気のない返事をした。
「なんか買ってこようか? あんまり遅くならないと思うから」
「いいよ。メシあるし、カレーでも食うから」
カレー好きのクマのためにレトルトカレーが常備されている。遊戯は飲み終わったココアのカップを流しで洗うと、ふわふわの襟のついた白いコートを着込んだ。玄関で白いボアのブーツを履く。
「お前、そーゆーの似合うよな」
「そうかな?」
クマはこくりと肯いた。ガキっぽくてよく似合うぜ!というほめ言葉は口の中に飲み込んだ。この家主が、見かけにいささかコンプレックスがあることは、さすがの城之内でももう十分に理解していた。
かわいくていいと思うんだけどな、オレは。
「行ってきます」
「いってらっしゃい」
クマは遊戯に手をふった。いつも笑いながら手をふりかえして出ていくところは、やっぱり子供っぽいよなとクマは思った。
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