「ほんとーに大きくなったよね……」
「貴様も誇りに思うがいい!」
遊戯くんは、ワハハハハといつものようにベッドの上で、高笑いをひびかせるたまごを見上げていました。
遊戯くんが拾ったたまごは、いまではとてもとても大きくなっていました。
どれぐらいかというと、天井につっかえそうになるぐらいです。
たまごは遊戯くんの背丈よりも大きくなっていました。
重さも遊戯くんの倍近くにはなっているでしょう。
すでに遊戯くんには、たまごを持ちあげることなんてできなくなっていました。
これ以上大きくなられたら、遊戯くんの部屋はたまごでいっぱいになってしまうでしょう。それどころか、すでにベッドの危機です。たまごが揺れると、ベッドがみしみしと音を立てます。
このサイズになるまでに、対策を取らなかったわけではありません。おともだちの城之内くんや本田くん、御伽くんたちが来て、外に出そうとしてくれたのです。
しかし、たまごは「オレを他の男の手に触れさせる気かー!」と嫌がり暴れまくって跳ねまくり、結局三人とも身体に青あざをつくって帰る羽目になったのです。
応接間に置こうとすると、お母さんが反対しました。1Fのお店のディスプレイにしようとすると、おじいさんが反対しました。たまごも嫌がりました。
不遜な態度しかとらないたまごですが、遊戯くんと一緒でないと眠れないようでした。
そういうところは、ちょっとかわいいよね――と思っているうちに、あれよあれよとこんな大きさになってしまったのです。
「ほんとにどうしよう……」
幸いなことに、ここ1週間ほど大きくなる気配を見せません。このままだったら、なんとか一緒に暮らせそうです。それとももうじき孵化するのでしょうか。このたまごが孵ったら、どんないきものが中からでてくるのでしょう。
*
それについては、遊戯くんの友だちの間でさまざまな意見が活発に交わされていました。
ここ最近、学校の休み時間に話すことといったら、このたまごのことばかりなのです。今日も、こんな話をしていました。
「冷静に考えて、鳥類か、は虫類だろうね」と御伽くんがいいました。「いくらたまごでも、カモノハシじゃないと思うよ。僕の考えとしてはヘビが一番あり得るかな」
「虫じゃないといいけど」杏子がこわごわと言いました。
「あのサイズだしなぁ……馬とか……。ゾウとか入ってたらどうすんだろうな……」
これは本田くんです。
「考えたくもねぇ」城之内くんが吐き捨てるようにいいました。「あんなオカルト物件は獏良のつてで売るかなんかしたほうがいいぜ、遊戯」
売れるものなのでしょうか? 遊戯くんは首をひねりました。
「みんな夢がないなぁ」やれやれと、名前をあげられた獏良くんがいいました。「もっと面白いものが入ってるって考えたほうがよくない?」
「面白いモノって?」と遊戯くんがたずねました。
「水晶球とか、宇宙卵とか、ロック鳥とか、ぐちゃぐちゃぬめぬめした軟体動物とか、名状しがたい恐怖とか!」
獏良くんは、両手を胸の前で組んで、頬を紅潮させ、目をきらきら輝かせながら語り始めました。獏良くんはオカルトやホラー関係に強いのです。城之内くんはトイレに行くからといって、教室から姿を消しました。
「酸を吐くエイリアンとかもいいよね! 古典的に美少女っていうのも捨てがたいけど」
卵から美少女が産まれたら萌えるなぁ〜と獏良くんはたのしそうに言いました。
「あんな低い声の女、いねぇだろうよ」本田くんが呆れたようにいいました。
「まあ、女の子なんてもんじゃないのだけは確かよね」杏子も相づちを打ちました。
本当に、いったい何がはいってるんでしょう。
*
「おい、遊戯」
もの思いにふける遊戯くんを、たまごが呼びました。たまごにしては神妙な声でした。
「なに?」
「貴様は、オレが孵化したらどうするつもりだ?」
「どうするって……」
そういえば、どうしたらいいのでしょう。何かが孵ることは間違いないのですが、そのあとはどうすればいいのでしょう。
じっと座り込んで考え込んでいる遊戯くんに向かって、たまごはこう言いました。
「卵という不自由な形態から解き放たれさえすれば、オレはオレのロードを突き進むことができる」
いまでもかなり自由に生きているような気がしますが。
「このシャーレにも劣るような狭い部屋なぞ、すっぱりと断ち切って飛び立ってやるわ!」
ワハハハハ!と笑い声が響きます。いつもの笑い声にくらべて、どこかわざとらしい響きが感じ取れました。たまごは、たまごなりに遠慮しているのでしょうか。いや、たまごに遠慮なんてものが存在するわけがありません。
でもたしかに、このままずっと面倒をみるのはたいへんなことです。どんないきものが中にいるのかわかりません。見ただけでゾゾゾッとするようないきものかもしれません。孵化したら、もっと大きくなるかもしれません。
「でも、ボクはキミがいなくなったら、さびしいなぁ」
遊戯くんは立ち上がると、たまごの表面をそっと愛おしそうに撫でました。
たまごでもさ、ずっと一緒にいると愛着でちゃうよね。
「オ、オレの栄光へと続くロードには、貴様がいようがいまいが関係ないぞ!」
たまごはぶるぶると震えました。ベッドもぎしぎし揺れました。
「そうかもしれないけど、ボクはキミが居てくれるとうれしいなって思ってるんだ」
遊戯くんの触れている部分が、カッと熱くなったような気がしました。こういうところは、わかりやすくてかわいいなーと遊戯くんは思いました。きっとたまごから出てきても、性格や反応はおなじままでしょう。それなら大丈夫かもしんないなーと、遊戯くんはのんきに考えました。
「ふぅん! そこまで言われては仕方があるまい! よかろう、オレの未来へのロードを、貴様と共に歩んでやろうではないか!」
たまごの哄笑が部屋中に響きます。遊戯くんは静かにしないと近所迷惑だよーといいつつ、たまごにちゅっとキスをしてあげました。
END.