昔なのか今なのかはよくわかりませんが、童実野町というところに、遊戯という名前の男の子が、おじいさんとおかあさんと一緒に住んでいました。
遊戯くんはとてもちいさくて、高校生だというのに小学生にまちがえられるほどのサイズでした。顔も目ばかりが大きくて子供っぽくみえます。男らしくごつごつとしたところもありません。
さりげなく毎日牛乳を飲んだりしているのですが、あまり伸びる気配は見えません。
それでも、毎日「なにかいいことないかな!」と元気に家を飛び出して、遊戯くんは学校に通うのでした。
*
ある日のこと、遊戯くんは、道ばたで奇妙なものをみつけました。
白いものです。
卵のかたちをしていますが、スーパーで売っているような鶏の卵ではありませんでした。
なぜなら大きかったからです。
どれぐらいかというと、たぶん、だちょうのたまごぐらいです。
遊戯くんは、おじいちゃんのオーストラリア土産で、だちょうのたまごの飾りをもらったことがあるのです。どうしてじーちゃんがオーストラリアに行ったのかは謎でした。ゲームの仕入れといっていつも出かけていくのですが、本当にゲームを買い付けにいってるのか、それは誰にもわからないのです。
さて、そのおおきな卵は、大変目立っていました。
道ばたでごろごろとまわりながら、声をあげていたからです。
「おい! 誰か! このオレを拾わんか!」
うっすらと青みがかった白い大きなたまごが、住宅街の歩道の上をごろごろとしながら大声をあげているのです。その声もかわいらしいヒナが囀るような声ならともかく、やけに美声の男らしい声でした。みんな気味悪がって遠巻きにしています。
当然ですね。
遊戯くんは、悩みました。
このまま遠回りして帰ろうか、それとも避けて通ろうか。
別に急ぐわけではないし、遠回りしようかな。
そう思って、くるっと卵に背中を向けると、なんだか視線を感じました。
たまごに目はついていません。
(ついてたら怖いよ〜)
そうわかっているのに、なんだか、じーーーっと自分のほうを見られているような気がするのです。遊戯くんは、観念してうしろをくるりと振り向きました。
おおきなたまごが、ぶるぶるっと揺れていました。
もう一度背中をむけて、歩き出します。
ごろごろというような音が聞こえてくるような気がしました。
遊戯くんは、くるっと振り返りました。
あわてたように、たまごがぶるぶる震えています。おまけにこう言うのです。
「オレはお前の後なぞ、つけておらんぞ!」
ふざけるな!なんて叫ばれてます。なんて答えればいいのでしょう。
「えーと。その」
「貴様、オレに興味をもったのか?」
「いや、その」
「ふぅん、仕方がないな! 喜ぶがいい! 貴様にオレを育てることを許すぞ!」
「いや、あのね」
「さぁ、今すぐオレを拾っていくがいい! そして育てるがいい!」
ワハハハという高らかな笑い声が聞こえてきます。遊戯くんは、もーしょうがないなーといいながら、そのおおきな卵を手に取りました。
たまごは、遊戯くんの手よりもずっと大きく、ほんのりと温かみを帯びていました。
落とさないようにしっかりと両手で抱きかかえてやると、白いたまごは安心したようにちいさく震えて、ほっとためいきをつきました。
えらそうなことを言っても、しょせんたまごです。このまま遊戯くんが落としたら割れてしまうのです。ひとりであんなところに転がっていて、怖かったのかも知れません。心細かったのかも知れません。きゅっと抱きしめて片耳をつけると、とくとくとくと音がひびいてきます。心音なのでしょうか。
(ちょっと、かわいいかもしれない)
遊戯くんの胸がきゅんとうずきました。こんなおおきな(態度も大きな)たまごですけれど、遊戯くんとくらべれば小さくてひ弱でかわいらしいものなのです。
たぶん。
「ボクのうちに連れて帰るけど、いいよね」
たまごは、ちょっとうれしそうにふぅんと言いました。
白いたまごがぷるっとゆれました。
「貴様は、オレと共にロードを歩みたいというのだな」
「なんなの、それ」
「ふぅん、よかろう! オレをお前の家に連れていくことを許すぞ!」
ワハハハハとまたもや高笑いをするたまごを抱きしめながら、もう少し静かにしてくれるようにしつけないとご近所迷惑だなぁと思う遊戯くんでした。
END.