「なあ、あれって何?」
「たまごだけど」
遊戯くんのおともだちの城之内くんが指さしたのは、遊戯くんのベッドの上に鎮座ましましています――といった感じで、でん!とやけに存在感をアッピールしている巨大なたまごでした。
ベッドの上に、さらにクッションをひいて、先の細い方を上にして、すっくと立っている巨大なたまごのすがたは、なんともいえない迫力がありました。
「……なんで、あんなでっかいの?」
おそるおそる城之内くんはたずねました。城之内くんはあんまり怪奇現象とかオカルトとかそう言ったたぐいのことが得意ではないのです。ガンをくれてくるヤンキー相手には元気なのですが、遊園地のお化け屋敷にはからっきしなのです。
「育っちゃったんだよね……」
あはははと遊戯くんは乾いた笑みをうかべました。
拾ってきたときは、だちょうのたまごぐらいだったのですが、今では遊戯くんが抱きかかえるのにも苦労するぐらいです。絶滅した巨大鳥エピオルニスや、ジャイアント・モアの卵よりも大きくなっていました。
「ガメラみたいだな……」
大怪獣の名前をこわごわと言う城之内くんをさらに怯えさせることがおきました。
「オレを爬虫綱・カメ目と一緒にするなー!」
「ひーーーーっ!!」
城之内くんは座ったまま、ぴょんと飛び上がり、ずざざざと後ずさると、壁にごんと後頭部をぶつけました。
「や、いやぁ! やめてぇっ!」
涙目になって首をぶんぶんと横にふっている城之内くんを見て(?)、たまごは「ふぅん」と満足そうに肯きました。
まるで先日みたエロビデオの女の子みたいな声だなぁーと思いながら、遊戯くんはおびえる城之内くんをなだめました。
「大丈夫だよ、城之内くん。たぶん」
「たぶんて! たぶんて!」
「けっこうこれで話わかってくれるから」
たまごから、不服そうな声が聞こえてきました。
「貴様のような、凡骨には、オレの存在は理解できまい」
「しない! しません! したくないいいいいっ!」
「大丈夫だってば、襲ってこないから」
「だって、遊戯ぃ! あいつ、あいつしゃべってるよ! なぁ!」
「口だけだから」
「口なんてどこにあんだよ!」
たしかに。
「何を言うか! オレは口だけの存在ではないわ! 昨日も、貴様の宿題をみてやったではないか!」
「そうだけど」
微妙に話がずれています。
「やだーー、もうやだーー! 遊戯ぃ! あれどっかに捨ててこいよ! やべぇよ、な?」
「遊戯にさわるなぁ! くっつくなぁ、触れるなぁ! この実験バエがぁ!」
城之内くんはさんざん泣き叫びながら、遊戯くんに送られて家に帰りました。ひとりで夜道を帰るのが怖かったのです。だって、あんなたまごのバケモノが出てきたらどうすりゃいいんだよ遊戯。そう言われると、遊戯くんも付き合わざるを得ませんでした。道ばたにあんなたまごがまた落ちている可能性が0ってわけじゃありませんからね。
*
「もー、友だちが来てるときはだまっててって言ったのに。城之内くんを脅さないでよね!」
「ふぅん! あのような有象無象、まさに凡骨と呼ぶのにふさわしい。貴様が付き合う必要はなかろう」
「友だちだもん」
「友情ごっこか。背筋が寒くなるわ!」
ゾゾゾ!と音を立てながらタマゴがゆれました。
「たまごの背筋ってどこだよー」
そういいながら、遊戯くんはパジャマに着替えていました。
たまごはまだ孵化する前なのだから、貴様が温めるのが当然だろう!と言って、おなじベッドに入ることを要求してくるのです。これ以上大きくなったらボクのベッドはどうなるんだろう。壊れないかしら――と思いつつ、遊戯くんはベッドに入り、おおきなタマゴをきゅっと抱きかかえました。たまごは嬉しそうにトクトクと音をたてています。声も大きいのですがボディランゲージも派手でわかりやすいのでした。なにかにつけぶるぶると震えたりしていますし。
「おやすみー」
「ふぅん、貴様も休むがよかろう!」
あいかわらず寝る前までテンション高いなぁ。遊戯くんはタマゴをそっと撫でながらそう思いました。タマゴはほこほこと温かくて、寒い夜にはとてもいい具合でした。