クリスマスの時期になると、遊戯くんは忙しくなります。
 遊戯くんのおうちはゲーム屋さんなのです。いつもは閑古鳥が鳴いている店ですが、さすがにこの時期はそれなりにお客さんがやってくるのです。
 店の硝子窓にクリスマスっぽいディスプレイをほどこし、納戸から出してきたクリスマスツリーをかざりつけ、クリスマスソングを流します。
 遊戯くんも店の手伝いで大忙しです。品物をきれいに包むする役目を仰せつかっているのです。遊戯くんはあまり器用なたちではないのですが、子供の頃からやらされているのでお包みだけは得意でした。
 しかし今年は困ったことがひとつだけありました。
「貴様は、先日から冬休みに入ったと言っただろう!」
 そうです、たまごです。
 たまごが不平をもらしているのでした。
 せっかく学校が休みになったというのに、ひとりで部屋に放置されているのが気に食わないというのです。
 先日遊戯くんが拾ったたまごは、すくすくと順調に育っていました。今では、遊戯くんが両手でかかえて、なんとか持ちあげられるかどうかぐらいのサイズです。
「でも、お店の手伝いするのは当然のことなんだぜー」
「お前は、オレを拾ってきたのだろう! きっちりとオレの面倒を見るべきだ!」
 拾ってきたというより、押しかけてきたんじゃないかなーと遊戯くんは思いましたが、反論はしませんでした。時間の無駄ですからね。
 それに、こうやって甘えてくるたまごは、ちょっぴりかわいいぜーと思わなくもないのです。
 遊戯くんはどうしようかなと悩みました。自分だってお店の手伝いをするよりは、たまごと遊んでるほうが楽しいのですが、そういうわけにもいきません。だって、お店の手伝いをちゃんとやらないと、正月のお年玉に響きますからね。
 よわったなーと遊戯くんが頭をひねっていると、遊戯くんの部屋の扉がバン!と開きました。
「話は聞かせてもらったわ」
「ママ!」
 劇的な音楽を口ずさみながら、エプロンをつけたママが軽やかに登場しました。
「すべて私に任せてちょうだい」
「ほう、いい解決策あるというのなら聞いてやらんでもないぞ」
 たまごが尊大に言うと、遊戯くんのお母さんは、「ほんとにこのたまごは口の悪い子よねー」といいながら、がしっと拳で青白い殻を殴りました。たまごはぐらりと揺れ、白い薄いかけらがきらきらと飛び散りました。殻がけずれたのです。
「うおぅ!」
 たまごが悲鳴をあげました。
「ママ! ボクのたまごをいじめないでよ」
 遊戯くんはたまごをかばうように前に立ちました。お母さんはいやね、そんなつもりはないのよと口に手をあてて上品に笑いました。
「でもよかったわ〜。この間、お父さんが買ってくれたダイヤの指輪は本物みたいね。傷一つないもの」
 たまごで、ためさないで欲しいものです。
 単身赴任でなかなか家に帰ってこないお父さんは、お母さんと会うたびに何かせびられているようでした。お父さんもたいへんだよなーと遊戯くんは思いました。
「それよりいい案って何なのさ、ママ」
「それはね」
 お母さんは、遊戯くんの耳をかるくひっぱり、こそこそと囁きました。たまごは話が気になるのか、聞き耳をたてるように軽く傾きましたが、話の内容まではききとれませんでした。
「えー! それって、なんかおかしくない?」
「おかしくないわよ。えーとほら、なんだったかしら、ウエストエッグだったかしら、たしかそういうのもあるんだから」
 イースター(復活祭)は聖誕祭とちがいます。

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「さあ、できたわ! これでばっちりね!」
「なんだか目出度そうな気がするのう」
 お母さんとおじいさんは、にこにこしながら目の前のたまごを見つめています。
 たまごは、赤と緑のクリスマスっぽいクッションの上にでんと置かれていました。綿の雪や、金色にひかるオーナメントを飾り付けられ、緑色のモールをぐるぐる巻いてあります。そしててっぺんの細い先のところには、金色の星がきらきらと輝いているのです。
 クリスマスツリーならぬ、クリスマスたまごでした。
 このクリスマスたまごは、お店の一番目立つところ――レジのとなりで、遊戯くんがラッピング作業をする台の上に置かれました。
「ふぅん、オレとしてはこのような凡庸な品を身につけることは慙愧に堪えないのだが、貴様らの店の売上げに貢献するためとあっては、致し方なかろう」
 いつの間にそういうことになったんだろう――そう遊戯くんは思いました。きっとママが口から出任せを言ったんだ。
 それでも、たまごはこの格好が誇らしそうでしたし、飾り付けを担当したお母さんや、それを見ていたおじいさんもできばえに満足そうでした。遊戯くんもわるくないなと思いました。けっこうどころか、意外なほど見栄えがいいのです。
「どうだ、遊戯!」
 意気揚々とたずねるたまごに、遊戯くんはこう答えました。
「かっこいいと思うよ」
 そうだろう! ワハハハハハ!と満足げに答えるたまごをみて、クリスマスプレゼント代わりに今日の夜はサービスしてあげるかなーと思う遊戯くんでした。



 メリークリスマス!